研究課題/領域番号 |
11J07213
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
江夏 洋一 早稲田大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | Lotka-Volterraモデル / 感染症モデル / パーマネンス / 安定性 / Lyapunov汎関数 / 時間遅れ |
研究概要 |
1.pure-delayタイプの協力型Lotka-Vblterraモデルにおけるパーマネンス解析 時間遅れを持たない種内競争項を含まないpure-delayタイプの協力型Lotka-Vblterraモデルにおいて、Lu and Takeuchi(1994)やWang and Ma(1991)らの研究に端を発する境界Lyapunov汎関数法を応用することで、Nakata and Muroya(2010)が与えた、システムがパーマネンスであるための十分条件の改善を行った。時間遅れに依存しないパーマネンス条件を得たことで、種内・種外における相互協力の世代幅が長くとも個体群密度が爆発することなく、時間終局的に種が共存することを理論的に示した。 2.非線形接触項と時間遅れをもつ感染症モデルにおける内部平衡点の大域漸近安定性 時間遅れつきSIR(Susceptible-Infected-Recovered)モデルにおける内部平衡点の大域安定性を示すために与えたLyapunov汎関数の構成法を応用し、ある単調性条件を満たす非線形接触項を含む時間遅れつきモデルにおける内部平衡点の大域漸近安定性を得た。さらには、回復個体群の免疫損失を考慮したSIRS(Susceptible-Infected-Recovered-Susceptible)モデルにおいて、open problemであった内部平衡点の大域安定性条件に関する部分解決を上記手法の発展により行った。具体的には、適切な汎関数を構成することで、免疫損失率が十分小さいならば、SIRSモデルの内部平衡点が存在すれば(遅れの長さに依存せず)常に大域漸近安定であることを示した。特に、基本再生産数が1に十分近いならば、任意の免疫損失率に対してモデルの内部平衡点は大域漸近安定である。さらには、単調反復法(モデル変数の上極限と下極限により構成された反復列が内部平衡点に収束するための係数条件を考察する方法)の適用により、免疫損失率が十分大きいならば、SIRSモデルの内部平衡点が大域漸近安定であることも示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
非線形接触項が単調でない、時間遅れつきSIRSモデルにおける内部平衡点の安定性解析においても単調反復法を適用することで、免疫損失率が十分大きいならば、モデルの内部平衡点が大域漸近安定であることを示した2編の論文を投稿し、出版した。この手法はSIRSモデルにとどまらず、他の感染症モデルの大域解析にも応用可能であり、それらの研究成果を引き続き査読付き国際誌へ投稿する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
感染個体群あるいは回復個体群が免疫損失等によって再び感受性個体群に変化する感染ダイナミクスを考察する際、時間遅れの大きさが内部平衡点の大域安定性条件にもたらす変化については、未だに多くの未解決問題を残している。本課題において用いたLyapunov汎関数や単調反復法を多くのmulti-groupモデルにおける平衡点の大域解析にも応用しながら、上記課題の解決過程で得られる基本再生産数を用いた理論的解釈を感染症蔓延に対する防止策策定に役立てる構えである。
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