研究概要 |
時間遅れを含む感染症モデルにおいて、McCluskey(2010)が与えたSIR感染症モデルにおけるLyapunov汎関数の構成法を、ある非線形接触項を含む遅れつきウイルス感染症モデルにおける内部平衡点の大域漸近安定性の解析に応用した。さらには、open problemとされていたSEIR感染症モデルにおける内部平衡点の大域安定性条件に関する部分解決を行った。具体的には、単調反復法(変数の上極限,下極限の評価値により構成される反復列が平衡点に収束するための係数条件を考察する方法)を適用することで、感染係数が十分に大きい場合に内部平衡点が大域漸近安定であることを示し,Beretta, Breda(2011)が与えた十分条件の改善も行った。また、Lyapunov関数を適切に構成することで、multi-groupを持つ感染症モデルの大域的力学挙動に関する成果も得た。具体的には、相異なる地域区画間の移動を考慮したSIR感染症モデルやSIRS感染症モデルにおける内部平衡店の大域漸近安定性がそれぞれ挙げられる。さらに、感受性個体群がLogistic成長に従う仮定を考慮したSIR感染症モデルにおいて、非線形接触項(特に飽和型接触項)に含まれる時間遅れがシステムのHopf分岐を引き起こすための基本再生産数に関する閾値条件を得た。具体的には、内部平衡点まわりの線型化によって得られる特性方程式の根の実部符号の変化に着目し、基本再生産数がある閾値より大きい場合に、漸近安定な内部平衡点が時間遅れの長さによって不安定化されることを示した。また、連続時間SIRSモデルに対応する、後退オイラー法によって離散化された差分方程式の解のダイナミクスに関する成果を得た。具体的には、Lyapunov関数の時間微分における対数関数項の式変形の適切な差分化に着目することによって、正値性条件を加えた方程式における内部平衡点の大域漸近安定性を得た。
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