申請者はすでに四種のナフトジチオフェン(NDT)誘導体の合成に成功しており、それらの物性測定を行った。その結果、屈曲型NDTと直線型NDTでは大きく物性が異なっていた。これは屈曲型はクリセン、直線型はテトラセンと等電子構造であるためであると考えられ、分子構造により電子状態が変化すると考えられる。また、これら四種のNDTのフェニル誘導体をFET材料に応用したところ、いずれの化合物においても典型的なp型FET挙動を示した。しかし、そのFET特性は大きく異なっており直線状かつ、チオフェンがアンチ型に縮合した化合物が最も優れた特性を示し、分子構造によりFET特性が変化することが分かった。続いて、これらのNDTを主鎖構造に組み込んだポリマー材料の合成を行いFET特性の評価を行った。四種のNDTとビチオフェンとのコポリマーにおいてFET特性の評価を行ったところ、p型FET挙動を示したが、やはり分子構造によりFET特性が大きく異なっていた。しかし、低分子材料の時とは異なり、最も優れた特性を示した化合物は屈曲型のNDTを主鎖に持つ材料であった。高分子材料においても分子構造により特性の違いが見られたが、なぜこのような違いが生じるかを調査するため、量子化学計算を用いたトランスファーインテグラルの算出を行いった。その結果、低分子体ではいずれも薄膜中ではヘリンボーン型の充填様式であり、その構造では直線状のNDTで、効果的にHOMOが相互作用でき優れた特性を示すと考えられる。一方ポリマー材料では薄膜中でπスタックしており、その構造では屈曲型のNDTで効果的にHOMOが相互作用し、優れた特性を示すと考えられる。以上より、分子構造により分子軌道が変化し、その軌道の形状に適した充填様式があると考えられる。この結果はFET材料開発な分子設計指針を与えるものであり、FET材料開発に大きく貢献するものである。
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