研究課題/領域番号 |
11J07279
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
丹治 直人 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 特別研究員(PD)
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キーワード | 相対論的重イオン衝突 / 量子色力学 / 非摂動論的効果 |
研究概要 |
相対論的重イオン衝突反応初期に現れる強い古典場で記述される状態から局所熱平衡状態に至るまでの時空発展を明らかにすることを目指して研究を行った。特に、昨年度までは古典場のまわりの量子ゆらぎについて線形化した範囲内で強い古典場からの非摂動論的粒子生成を解析していたが、生成した粒子同士の衝突の効果を導入し系の熱平衡化を記述するために、量子場について高次の効果を取り込んだ解析を行った。 まず、QCDのトイモデルとしてのφ^4スカラーモデルを用いて強い凝縮場が存在するときの熱平衡状態に至るまでの時間発展を調べた。凝縮場からの非摂動論的粒子生成をゆらぎについての最低次の効果として記述し、さらに、ゆらぎについて次の次数を考慮することで衝突項を含むBoltzmann方程式を導出した。この系には強い凝縮場が存在するために、衝突項には粒子どうしの衝突だけでなく粒子と凝縮場の衝突が含まれ、凝縮場の強さゆえにこの衝突項の寄与は大きくなる。特に、凝縮場との衝突により運動量の小さな粒子の数が急激に増大することを示した。 また、量子ゆらぎの高次の効果を含めた系の実時間発展を記述する別の方法として、古典統計場シミュレーションの方法を用いた研究を行った。相互作用の高次の寄与を系統的に足しあげた場の量子論の時間発展の問題は、ランダムなゆらぎを含む初期状態のもとで古典場の方程式を解いて初期状態についてのアンサンブル平均を取るという問題と等価であることがDuslingらによって示されている。先行研究では、この方法はφ^4スカラーモデルに適用されていたが、これをスカラーQEDに適用することで、強い古典的な電場からの非摂動論的粒子生成(Schwinger機構)を記述した。古典場の方程式を解いているにもかかわらず、この方法は量子論的トンネリング現象であるSchwinger機構に対して通常の場の量子論による解析とまったく同じ結果を与えるということを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ビーム軸方向へのローレンツブースト不変な膨張の効果を取り込んだ研究は行っていないものの、古典統計場シミュレーションの方法を用いた研究は、次年度の研究を進めるための基礎となるものである。特に、古典統計場の方法により量子的トンネリング現象であるSchwinger機構を記述できたことは、この方法をQCDの系に適用して重イオン衝突反応初期過程を解析する上で重要な結果である。また、古典統計場の方法における繰り込みの問題に関して、部分的にではあるが問題を解決できたことも今後の研究につながるものである。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究をさらに推進し、古典統計場シミュレーションの手法における繰り込みの方法について研究する。その上で、古典統計場シミュレーションの方法をQCDの系に適用し、ビーム軸方向への膨張の効果を取り込んだ解析を行う。特に、クオーク生成を解析することで、クオーク・グルオンプラズマにおける化学平衡がどのようにして実現するのかという問題に対して解答を与えることを目指す。
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