研究課題/領域番号 |
11J07296
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
新屋 啓文 広島大学, 大学院・理学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 非線形動力学 / パターン形成 / 粒子法 / 現象論モデル / 砂丘 / なだれ |
研究概要 |
本年度は、地形のパターン形成やダイナミクスに見られるメカニズム、特に、砂丘となだれについて、i)現象の細部に至る詳細な性質を明らかにする粒子法シミュレーションと、ii)現象を粗視化し本質の抽出を行う現象論モデルの構築と数理解析の2つの異なるアプローチを用い考察する目的で、以下のとおり実施した。 1.砂丘について これまで砂丘骨格模型と呼ばれる現象論モデルの数値計算により砂丘形状の切り替わりが得られている。そこで、これら切り替わりを単純な力学系の分岐理論として捉え、その転移メカニズムを明らかにした。また、現象論モデルで用いているパラメータと観測や実験で得られた定量的データとの比較を行い、パラメータの物理単位及び現象論モデルの仮定の正当性を示した。さらに、単体の横列砂丘に着目し、ランダムな微小摂動に対する統計的性質(ゆらぎの成長・減衰速度、横列砂丘の持続時間など)を調べた。 2.なだれについて 粉体と流体の相互作用を粒子間の長距離相互作用として組み込んだ粒子法を構築した。粒子の運動を2次元平面に制限した数値シミュレーションから、粉体なだれ前端で生じる不安定化、および、不安定化に続いて引き起こされる頭部形成を確認した。そして、粒子速度の可視化により、なだれ内部で渦対(粒子流動)が形成されることを明らかにした。また、頭部の幅の平均値がシミュレーションに用いた粒径と線形の関係性にあることが分かった。これらの結果は、既存の実験において示唆された渦の存在及び頭部の粒径依存性を定性的に説明した。さらに、頭部の幅が粒径固有の値であるか確認するため、初期配置のアスペクト比を変化させた。すると、頭部のサイズは、進行方向と直交する配置幅によらず、進行方向の配置長さのみに制御されることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに、地球科学的対象である地形形成やなだれについて、当初予定していた手法(1.粒子法など現象の細部まで忠実に記述するシミュレーションモデル、2.自由度をできる限り減らした縮約モデルと数理解析)を用いて、1.によりなだれのパターンを再現し、一方で、2.により砂丘形状の転移メカニズムを解明した。つまり、それぞれの手法を用い研究成果が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
まず、現象論モデルの数値計算と数理解析を用いて孤立バルハンの安定性を調べる。そして、砂丘の衝突など多体系問題へと現象論モデルを拡張する。一方で、砂と空気の相互のフィードバックにより形成される地形として、砂丘より規模の小さいリップルを対象にする。リップル形成に関しては、粉体シミュレーション(DEM)と流体シミュレーション(セルオートマトン)を組み合わせた手法を構築する。 また、なだれについて、異なる粒径を混ぜた状態での粒径のサイズ分布や3次元シミュレーションを行う。そして、これら数値計算結果を基に、なだれ前端の変化に着目した数理解析可能な現象論モデルを提案する。 可能であれば、細胞運動やミドリムシなどの生物対流のモデル化を進める。
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