研究概要 |
L-アミノ酸やD-糖など,生体関連有機化合物に見られるホモキラリティーの起源として,これまでに水晶などの不斉無機結晶や円偏光,アキラルな有機化合物の不斉結晶などが提唱されてきた。本研究においては,シトシンのキラル結晶に見られるような,アキラル結晶からキラル結晶へと不斉変換でき,かつ,その絶対配置を制御可能なキラル有機結晶が不斉起源として作用した可能性を明らかにすることを主目的とする。アキラルなシトシン及びアデニンが形成するキラル結晶について検討を行った。 核酸塩基の一つであるシトシンは,水から結晶化させるとアキラルな一水和物結晶(P2_1/c)を与える。 今回,シトシン一水和物単結晶のエナンチオトピック面から加熱脱水または減圧脱水することにより絶対不斉を制御したシトシンのキラルな無水結晶が得られることを明らかにした。しかも脱水方法によって互いに逆のキラリティーを有する結晶が得られることも見出した。さらに,シトシンのキラルな無水結晶を不斉開始剤として用いる不斉自己触媒反応を行い,キラル結晶のキラリティーに相関した絶対配置を有する生成物が得られた。また,アデニン二硝酸塩がキラル結晶として不斉自己触媒反応を誘導することを見出した。本成果は,いかにして不斉結晶が生成し,不斉の起源として作用して今日の地球上で見られるようなホモキラリティーへと至ったのかを議論・検討するヒントを与える可能性をもつものと考えられる。さらに,シトシン及びアデニンは,核酸塩基の1つであり,DNA,RNA中で遺伝情報の維持・伝達を担う重要な物質の一つである。このように生体が共通に利用するアキラルな化合物である核酸塩基シトシン及びアデニンが不斉起源として作用する本研究の成果は意義深いものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アキラル結晶であるシトシン一水和物単結晶のエナンチオトピック面から加熱脱水し,結晶水除去を行うことによりキラル結晶が得られ,不斉発生制御できることに加え、減圧脱水した場合もキラル結晶が得られることを見出した。また,加熱脱水・減圧脱水の場合で同じ面を作用させても逆のキラリティーをもつキラル結晶が得られることも明らかにした。さらに,アキラルなアデニンが形成するキラルなアデニンニ硝酸塩が不斉自己触媒反応を誘導することを明らかにした。
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