当研究室で樹立したウシ筋肉内脂肪前駆細胞(BIP細胞)の分化前後での遺伝子発現をサブトラクション法により比較することで、セロトニンが牛肉の脂肪交雑機構にセロトニン受容体2Aを介して深く関与することが示唆された。しかしながら、セロトニンのBIP細胞の成熟脂肪細胞への分化への影響は明らかとなっていない。本研究では、セロトニンがセロトニン受容体2Aを介してBIP細胞の分化に関与していることを想定し、セロトニンのBIP細胞分化誘導へ与える影響を解析した。さらに、反鯛動物と単胃動物におけるセロトニンの効果を比較解析した。本年度は、研究計画に従い遂行し、以下の知見が得られた。 インスリン(50ng/ml)およびデキサメタゾン(0.25mM)存在下でセロトニン受容体アゴニスト(DOI)(0~5μM)は、BIP細胞の分化を誘導し、濃度依存的にトリグリセリド蓄積量を増加させた。さらに、セロトニン受容体2Aアンタゴニスト(Ketanserin)(0~5μM)は濃度依存的にBIP細胞におけるセロトニンの分化誘導作用を抑制した。以上のことから、セロトニンはセロトニン受容体2Aを介して、BIP細胞の分化を誘導することが明らかとなった。 次に、反鯛動物であるヒツジと単胃動物であるマウスへセロトニンを投与し、その生理反応性を比較した。セロトニン投与は糖代謝に関与する血漿グルコースおよびインスリン濃度においてはヒツジとマウスでほぼ同様の反応を示し、これらの上昇を誘導した。一方で、セロトニン投与による脂質代謝に関与する血漿トリグリセリド、NEFAおよびコレステロール濃度の変動においては、ヒツジとマウスで全く異なる効果を誘導することが明らかとなった。 以上より、セロトニンがセロトニン受容体2Aを介して、筋肉内脂肪細胞の分化を誘導し、セロトニンが関与する脂質代謝においては反鯛動物と単胃動物では効果が異なることが示されたことから、本研究はセロトニンによる黒毛和種牛脂肪交雑制御機構の解明に繋がると考えられる。
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