研究課題/領域番号 |
11J07491
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
関 信輔 東京海洋大学, 海洋科学技術研究科, 特別研究員(PD)
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キーワード | 小型魚類 / メダカ / 魚類遺伝資源の保存 / 凍結保存 / 生殖細胞 / 精原細胞 / 絶滅危惧種 / 不妊魚大量生産 |
研究概要 |
本研究の目的は小型魚類を対象とした魚類遺伝資源の保存である。 平成23,24年度の研究により、メダカ精巣のガラス化保存と移植精原細胞由来の配偶子のみを生産する不妊三倍体宿主(代理親)の作出に成功し、絶滅危惧種である野生地域集団(東京めだか)を保全する事にも成功した。平成25年度では、全ゲノム配列解読が完了している研究上有用な近交系(Kaga)についても、本技法が応用可能かどうかを調べた。また、メダカには、wnt4への挿入変異により、脊椎が正常に形成されずに、体型が肥満体型になるために正常な交配ができない系統(ダルマメダカ)が存在する。そこで、遺伝的に妊性が低い系統であっても、体型が正常な系統を代理親に用いる事で大量生産可能かどうかを検証した。 近交系(Kaga、クロメダカ)の精原細胞含む精巣を凍結融解し、それら精巣細胞を代理親(vasa-GFP緋メダカ)へ移植したところ、代理親はドナー由来のハプロタイプを示す次世代のみを得ることに成功した。さらに、ゲノム解析を行ったところ、ドナーとして使用したKagaと同一であることが確認された。全ゲノム配列が解読されており、研究上重要な近交系の生殖細胞の凍結保存と個体作出に成功した。 また、低妊性系統であるダルマ体型メダカについても、正常な体型をしたクロメダカを代理親に用いる事で大量生産することに成功した。ダルマメダカ同士の交配では受精率は低かったが(16/157、10.2%)、正常な体型のクロメダカを代理親に用いることでその受精率は112/144 (79.4%)へと大幅に改善された。また、宿主には、不妊三倍体を用いる事で、それらすべての次世代はドナー由来であることを確認した(231尾中231尾)。代理親魚技法を用いることにより、研究上重要であるにも関わらず、継代することが困難な系統でも、生殖細胞さえ正常であれば大量生産することが可能である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
メダカにおいて、近交系や絶滅危惧種の野生地域集団の遺伝資源保存は喫緊の課題であった。そこで、精子卵子両者へ分化できる精原細胞を含む精巣をガラス化保存し、融解後、代理親へ移植する事で凍結生殖幹細胞由来の個体を復活させる事を成功させた。実際に近交系や野生地域集団を保存し、それらの個体を復活させることに成功した。さらに、体型が肥満体型なため、遺伝的に低妊性である系統(ダルマメダカ)においても、正常な体型の代理親に凍結精原細胞を移植することで、大量生産が可能であることを示した。遺伝的に不妊な系統でも大量生産可能である。メダカにおいて、精巣の凍結保存法や精原細胞移植法はすでに完成の域に達しており、研究を始めた当初の目的を達成している。
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今後の研究の推進方策 |
小型魚類であるゼブラフィッシュにおいても、近交系が樹立されようとしており、ゼブラフィッシュにおいても、精巣のガラス化保存法と代理親を用いた個体作出法の開発を進めており、今後それらの方法が確立されることが望まれる。 また、水産業において、高度に系統化された養殖魚が自然界へ逃亡し、地域集団と競合・交雑することで引き起こされる遺伝的撹乱が問題視されている。そこで、本法を養殖魚に応用する事で、大量生産された不妊魚を養殖魚に用いる事で、これらの問題を解決することができるかもしれない。
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