研究課題/領域番号 |
11J07545
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
稲垣 善則 東京大学, 大学院・薬学系研究科, 特別研究員(PD)
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キーワード | 癌 / 抗癌剤 / 組織障害 / 薬剤標的 |
研究概要 |
本研究では、組織障害モデルとしてのカイコの有用性を検討した。本モデルは、哺乳動物における組織障害性のマーカーであるアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)の活性レベルに基づいて、カイコ体内での化学物質による組織障害を検出するものである。組織障害物質として広く用いられている四塩化炭素を血体腔内あるいは腸管内に投与したところ、カイコ体液中におけるALT活性の上昇が検出された。また、このALT活性の上昇は、サリチル酸など他の組織障害誘導物質の血体腔内投与でも認められた。以上の結果は、カイコは、組織障害を誘導する化学物質の組織毒性効果を評価する目的で有用であることを示唆している。 組織障害を含めた抗癌剤による副作用の発生は、正常細胞への毒性効果が原因の一つとして挙げられる。癌細胞は細胞分裂を繰り返す増殖状態にあるのに対して、哺乳類動物体内における多くの細胞は非分裂状態にある。従って、非分裂細胞よりも分裂細胞に対して強い毒性効果を示す物質を探索することが、抗癌剤開発に有効となる。そこで、培養細胞を用いて増殖期の細胞と静止期の細胞を分別して作出することにより、上述した目的を達成するin vitro解析系の構築を試みた。細胞の増殖を抑制することが知られている化学物質328種類について、増殖期の細胞と静止期の細胞のそれぞれに対する毒性をin vitroで解析したところ、静止期の細胞よりも増殖期の細胞に対して強い毒性を示す化合物を複数種見出した。以上の結果から、本解析系が増殖期の細胞に対して毒性効果を有する化合物の簡便な探索に利用できることが示唆され、抗癌剤候補物質の開発に有用であることが期待される。最終的に、このin vitro解析系と上述のモデルカイコを組み合わせた新たな創薬研究技術を構築すると共に、それを利用した化合物スクリーニングを実施して癌治療薬候補の創出を図る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
組織傷害モデルカイコに関する研究では、試験物質を腸管内に投与した場合でも体液中でのALT活性の上昇を検出することができ、経口投与による組織傷害の誘導を評価できるモデルとして示唆した。一方、細胞を用いた研究では、特異性の高い薬剤を選択する新しい手法を開発できることを見出した。以上の点から、当該年度の研究成果は、当初の目標以上のものであったといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の目的である特異性の高い抗癌剤の創出を達成するために、顕著な組織傷害を誘導することなく腫瘍細胞の増殖抑制を達成する薬剤の探索を試みる。組織傷害評価系に関する研究では、ALT活性を指標にしたカイコのモデルをさらに発展させ、蛍光光度を指標としたモデルの開発を試みる。加えて、in vivoモデルを用いることなく生体内での非特異的な細胞毒性を評価するin vivo実験系の構築に関しては、既存の抗癌剤のほかに分裂期の細胞に対して強い毒性効果を有する物質を天然物由来の物質を中心に探索する。
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