研究課題
本研究課題において、細胞を取り巻く微小力学環境を制御することにより、細胞の機能応答性のばらつきを抑えることを目的とする。細胞形態、細胞の生存シグナル、分化などを決定する因子として、細胞内のアクトミオシン収縮により発生する力が重要な因子であることが近年明らかにされてきている。このことから細胞が発生する力を制御することができれば、細胞の状態を均一化できることが期待される。過去の報告から、細胞形態を制御することで、細胞の発生する力とその伝達に関わるタンパク質(アクチンストレスファイバと焦点接着斑)の局在性を再現性よく制御することが可能であることが示唆されている。そこで研究初年度である当該年度においては、まず細胞形態制御法の確立を行った。従来法を参考にして、広く細胞培養に用いられる様々な基質において細胞形態を制御することが可能となった。さらに、細胞の主たる力の発生器官であるアクチンストレスファイバの生物物理的性質の計測を行った。本実験系では、細胞からアクチンストレスファイバを抽出することで、化学的・物理的に操作することが可能である。また、生化学的手法によりほぼすべてのタンパク質が維持されていることを確認した。抽出したアクチンストレスファイバに様々なATP濃度溶液を添加することで収縮力計測を行った。その結果、細胞内ATP濃度の範囲においては数10nN程度の力を発揮できるのに対し、それよりも高いATP濃度にすると、弛緩することが明らかとなった。さらに、細胞形態制御を行うことで、細胞内に発達するストレスファイバの位置依存的な構成要素の違いを再現性よく見出される可能性も示唆される。今後、研究計画にある細胞のシグナル活性状態の解析とともに、アクチンストレスファイバの生物物理的性質をより詳細に理解することが期待できる。
2: おおむね順調に進展している
当初予定した手法とは異なるアプローチで細胞の形態制御方法を開発し、順調に進展している。各種基板・基質への化学修飾方法の最適化の条件出しも順調に推移しつつある。
新たに開発した細胞形態制御方法を用いて細胞の形態制御、ならびに高分子ゲルにより基質硬さを制御した上で、細胞内小器官の局在性およびシグナル分子の活性化状態を解析する。それらのアッセイ系を通じ、上記力学環境操作時における細胞機能応答の均一化の証明について、細胞周期や生存シグナルに焦点を当てて取り組む。
すべて 2012 2011
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (10件)
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