本研究課題において前提となる仮説「細胞応答のばらつきの一部は、個々の細胞が置かれる力学環境(形態、基質硬さ等)が多様であることに由来する」に基づき、もし力学環境を均一にすることが可能であれば、その細胞応答における細胞ごとのばらつきを抑制することが可能となることを立証するべく、本年度は以下の研究を行った。 細胞形態制御方法として、前年度においてマイクロスケールのマスクと真空放電を用いることで様々なサイズの四角形・円形状に細胞パターニングを施せることが可能となった。今年度は細胞形態を任意の形態へと制御するべく、真空放電装置内にモーター制御機構を組み込み、マスクを走査することで真空放電に暴露された基質表面のみに細胞接着領域を形成することを試みた。その結果、単一細胞レベルでは十分なパターン形成能が得られなかったものの、今後マスクと基質表面間距離を縮めることで改善できるものと考えられた。また、高分子ゴム基質に細胞形態パターニングを施し、かつその表面に任意方向へ微小ガイドを形成する方法を開発した。細胞種にも依るがガラスやポリスチレンシャーレ上では細胞長軸方向へとアクチンストレスファイバーが配向するが、長方形に細胞形態を制御し、その単軸方向に微小ガイドを形成させた基質上では、アクチンストレスファイバーは細胞短軸、つまり微小ガイドに沿った方向へと配向することが明らかとなった。この細胞応答は微小ガイドの方向とアクチンストレスファイバーの端部に形成される細胞接着構造の形成・成熟化が関与していることが示唆された。
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