研究課題
本年度は、昨年度までに得られた知見や経験を活かし、主に3つのトピックについて検討した。(1)複合自由度の存在する2次元理論模型の相転移の様相について、モンテカルロ・シミュレーションを用いて検討した。複数の競合する相互作用から構成される2次元ハイゼンベルク模型である。この理論模型の対称性はSO(3)×Z_2である。この理論模型について、Z_2対称性の破れを伴う2次相転移と、SO(3)対称性に関係する、Z_2渦の解離現象(トポロジカル相転移)が同時に発生することを見出した。更にこの2次相転移のユニヴァーサリティークラスが2次元イジング模型に属することを有限サイズスケーリングから明らかにした。この結果は、Z_2渦の解離現象が臨界現象に影響を及ぼさないことを示唆している。(2)複合自由度の存在する3次元理論模型の1次相転移の様相について、モンテカルロ・シミュレーションを用いて検討した。複数の競合する相互作用から構成される3次元ハイゼンベルク模型である。この理論模型の対称性はSO(3)×C_3である。この理論模型について、SO(3)×C_3対称性の破れを伴う1次相転移があることを見出した。積層相互作用を強くしていくと、相転移温度は上昇し、潜熱が減少することが分かった。この潜熱の振る舞いは、最も単純な平均場近似で得られる結果とは異なるものであり、複合自由度の協同効果で理解できるものと考えている。(3)最適化問題における計算手法の1つである量子アニーリングの開発に取り組んだ。量子アニーリングはシミュレーテッドアニーリングの温度(熱揺らぎ)を量子揺らぎに置き換えたものである。量子アニーリング法をクラスタ分析と呼ばれる、幅広い分野で適用可能な最適化問題に適用した。大規模量子モンテカルロ法を用いて、量子アニーリングを行ったところ、従来の方法であるシミュレーテッドアニーリンゲに比べ、効率よく解を得ることができることを確認した。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、1年目及び、2年目に得た統計物理学的知見や大規模数値計算の経験を活かし、研究を推進することができた。特に複合自由度の存在する理論模型における相転移の考察を進め、2種類の新しいタイプの相転移を見出し、論文にまとめることができた。相転移点で破れる対称性と相転移の様相の関係について、これまで知られていない新しい結果を得ることができた。更に、数値計算手法に関する論文をまとめることができた。
本研究課題は3年間に渡るものであり、1年目は主に磁性体の理論模型の構築に関する経験を得ることができた。2年目は主に、1年目に構築した理論模型の相転移の様相の探求、及び、平衡状態や基底状態を得るための数値計算アルゴリズムの開発に取り組んだ。3年目では、2年目に得られた結果を更に深め、論文にまとめた。残された課題として、実験的に操作可能な外場に対する応答性、特に、非平衡現象に対する研究がある。非平衡統計物理学は現在活発に研究されている分野の一つであり、磁性化学をキーワードに新しい展開をつくり上げることが期待される。また非平衡現象を正確に取り扱うための大規模数値計算手法の開発もまた、重要な課題としてあげられる。
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すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (15件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件)
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