研究課題/領域番号 |
11J07652
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
片山 耕大 名古屋工業大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 生物物理 / 視物質 / 波長制御 / 赤外分光 / 構造解析 / 内部結合水 / 色覚 / 培養細胞 |
研究概要 |
本研究では低温赤外分光法を霊長類の赤・緑感受性視物質に適用し、波長制御機構、光反応制御に関わる水分子を含む水素結合ネットワークの役割を明らかにすることが目的である。さらに波長制御に関わるクロライドイオンの結合メカニズムを実験的に直接明らかにすることも目的としている。本年度の研究成果の概要を以下に記述する。 1.霊長類の色覚視物質は試料調製の困難さから構造解析が全く行われていないが、私はヒトガン細胞由来の培養細胞を用いて霊長類の赤・緑感受性視物質を作製し、赤外分光測定による構造解析に挑戦している。今回私は、すでに得られている赤外差スペクトル(2010年に最初の論文)の精度を上げ、水素結合の直接モニターとなるX-D伸縮振動領域に焦点をあてることで、タンパク質内部に結合した水分子のO-D伸縮振動バンドを帰属することを試みた。帰属には、重水及び重水の同位体標識試料(D_2^<18>O)を用い、スペクトル精度を上げるため大量の試料を培養細胞により発現させることで、内部結合水を帰属することに成功、色覚視物質のタンパク質内部に水分子が存在することを初めて明らかにした。この研究成果はBiochemistry誌に報告し、新聞掲載された。 2.霊長類の赤・緑感受性視物質の波長制御にはクロライドイオンの結合が重要であることが知られているが、構造情報は皆無である。私は、霊長類の緑感受性視物質に対し、水溶液中での構造解析が可能な全反射赤外分光法を活用し、Cl^-,Br^-,NO_3^-,I^-それぞれを含むバッファーのうち2つを交互に流すことで赤外差スペクトルを測定し、クロライドイオン結合による構造情報を実験的に直接得ることを試みた。すでに各種イオン結合により誘起された赤外差スペクトルも得られている。特にクロライドイオン結合サイトの一端を担うと考えられているβ-シート構造の変化に対応した振動バンドが観測された。この研究成果は、現在論文を作成中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成21年度に世界で初めて霊長類色覚視物質の構造解析を実現したわけであるが(最初の論文発表成果)、X線結晶構造解析と異なり、赤外分光法の場合はスペクトルが得られたことはスタートラインにすぎない。一方で色覚視物質の内部結合水を帰属することに成功した本年度の研究成果は、水分子が単にタンパク質の隙間を埋めているだけでなく、波長制御機能に水分子が関与していることを実験的に明らかにしていることから、色識別メカニズムを構造基盤に立脚して理解するといった目的に向かって着実に進展していると確信していることが理由である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究である色覚視物質の内部結合水を帰属することは、およそ1000個の水分子から、タンパク質内に結合した僅か1個の水分子を観測するチャレンジングな課題であるが、試行錯誤を繰り返すことで帰属に成功し、水分子が波長制御に関与していることが示唆された。しかしより詳細に波長制御機構を理解する為には、水分子がタンパク質内部においてどの場所に存在し、どのアミノ酸と相互作用をして波長制御を実現しているのかを実験的に明らかにする必要がある。そこで私は今後の方針として、分子生物学的手法を用いることで種々の変異タンパク質を作製し、同様のスペクトル測定により、野生型のスペクトルとの比較解析から水分子の挙動変化やアミノ酸の同定を目指す。
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