本年度は、前年度に進展が得られたc-Met-HGFシグナル伝達系を標的とする環状ペプチドの開発として、(1)再生医薬ペプチドの開発、(2)抗癌剤ペプチドの開発の2点を目標とし、研究を進めた。 (1)は、スクリーニングで得たc-Met結合ペプチドをアゴニスト(活性化剤)として高機能化するという挑戦的な研究であった。本年度(3年目)ではアゴニストペプチドの最適化の安定性向上を行うことで、ペプチドの活性を大きく向上させることに成功した。さらに、共同研究により、開発した活性化ペプチドのc-Met活性化機序および、再生医薬としての応用研究を進めた。c-Metを活性化するペプチドとしては世界初の報告であり、大きなインパクトを持つ研究を達成したと考えられる。また、この研究は複数の学会で発表を行い、新規技術として特許を申請し、論文として現在投稿中である。 (2)は、前年度までの方針では進展が見られなかったため、c-Metのリガンドである増殖因子HGFを阻害するペプチドを開発するという方針へ転向することで達成を図った。HGFはc-Metに対して強力なタンパク質間相互作用をもって結合するため、低分子量のペプチドで結合阻害を行うのは難しいと考えられた。しかし、HGFに対して特殊環状ペプチドのセレクションを行い、得られたHGF結合ペプチドの阻害活性を詳細に調べたところ、c-Met-HGF相互作用に対する非常に強力な阻害能を有することが明らかとなった。これまでにHGFを阻害するペプチドは報告されておらず、本研究で得られたペプチドはHGFを標的とした抗癌剤のシーズとして有望である。 以上の研究結果が本年度の主な進捗である。特定のシグナル伝達系を標的とし、一つの技術を基盤として活性化剤と阻害剤という真逆の活性を有する化合物を開発した例はこれまでになく、高い新規性および有用性を有すると考えられる。
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