研究課題/領域番号 |
11J07772
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
島崎 裕子 立教大学, コミュニティ福祉学部, 特別研究員(PD)
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キーワード | 人の移動 / 人身売買(人身取引) / 移住労働 / ジェンダー / 労働搾取 / 不可視化 / カンボジア・ラオス・タイ / 社会環境 |
研究概要 |
当該年度は、「カンボジアとラオスにおいて不可視化する人身売買と日常化する移住労働の関係」をテーマに研究を遂行した。人身売買のルーツとしての農村での人身売買の実態、世界市場と地域社会の関係性、移住先の社会環境などを捉えた。 カンボジアおよびラオスの農村住民には、経済活動の活発化に伴い人の移動がより促進され、地域内格差が一層浮き彫りになっている。地域共同体の解体、出稼ぎ労働者が移住先で気づかぬ間に強制労働や法的無保護状況に置かれていくという側面も見逃せない。プッシュ・プル要因、他律・自律性が複雑に絡み合う構図のなかで、移住労働者たちの搾取が進行し、当事者が気づかぬうちに、人身売買の構造に巻き込まれていく可能性が高まっている。 カンボジア・ラオスとも、職の斡旋・周旋では、既に移住先において就労経験をした親族や知人といった人的ネットワークを利用する傾向にある。しかし斡旋・周旋の元締めには、仲介人(ブローカー)が存在することが少なからず、特にカンボジアの女性のケースでは、「モデル」となるような「成功者例」をブローカーが人為的に作り上げ、移住労働が経済的向上をもたらすことを約束するような職業斡旋の方法がとられている。職業斡旋の方法がより巧妙になり、地域社会そのものが、そのシステムに巻き込まれ、結果的に人身売買の被害にあう構図がうかがえる。 また、従来と比較し人身売買の発現形態が可視化しにくく、同時に、女性の人身売買被害者そのものが不可視化されて来ていることが懸念される。人の移動が加速している現在だからこそ、移住労働に含まれる潜在的な人身売買を複合的な視点から捉え、人身売買被害へと巻き込まれるシステムを早急に可視化する必要性がある。したがって、引き続き地域内部の個別事情を捉えた支援モデルの構築を学術的視点から検討していきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に引き続き今年度も現地調査を実施し、貴重なデータを踏まえた研究成果を国内外での研究会や学会報告、論文などを通じ、積極的に報告・執筆を行った。また、隣接領域などの視点も取り入れ、研究に深みを持たせることにも邁進した。さらに、研究の成果を学問の領域だけにとどまらせず、アウトリーチ活動として、人身売買の現状などを一般市民向けの公開講座や、講演会などの場で情報を発信するなど活動の幅を広げ、社会活動も実施した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として、昨年度、今年度の調査を踏まえながら、引き続きジェンダーの視点を中心におきつつカンボジア・ラオスの男女差にみられる、国境周辺のコミュニティのネットワークの形成過程の比較、出稼ぎ労働における出身農村や家族への影響の差異、受け入れ先での社会環境差異の研究を遂行したい。したがって、今後も、カンボジア、ラオス、タイにおいて現地調査を行い、研究を深め、当事者の存在が目に見えるような社会開発と社会福祉の視点を融合させた理論に立つ研究成果の発表を考えている。
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