研究課題/領域番号 |
11J07791
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
上木 岳士 東京大学, 大学院・工学系研究科, 特別研究員(SPD)
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キーワード | イオン液体 / 刺激応答性高分子 / ブロック共重合体 / ゲル / 体積相転移 / ゾルーゲル転移 / 自己組織化 / 自己集合 |
研究概要 |
イオン液体中のUCST温度応答性高分子の微視的な相転移現象がいかにマクロ相分離に結びつくか小角中性子散乱(SANS)によって評価した。他にもpoly(benzyl methacrylate)(PBnMA)のLCST型相転移の熱力学的要因となる低エントロピー化の起源を広角X線散乱およびMDシミュレーションの結果から明らかにした。本研究開始当初から期待されていたように芳香族側鎖近傍にはバルクのイオン液体より高い確率でイオン液体のイミダゾリウムカチオンが存在している可能性が強く示唆され、この構造化が低エントロピー化の起源であることが証明された。 イオン液体中の高分子化合物の刺激応答性を利用した機能設計/材料構築という観点では、光刺激に応じて単分子溶解と自己集合の二状態を可逆的に取りうる新規ジブロック共重合体を設計、論文化した。温度可逆性イオンゲルの創製に関して、まずはPBnMAを両末端に有するABAトリブロック共重合体による高温でイオンゲル化するシステムに関する論文を提出した。さらに化学架橋を施したアゾベンゼン含有イオンゲルの特殊収縮相と光刺激による最安定相への解放に関する興味深い現象に関しても速報を提出した。 イオン液体と刺激応答性高分子のコラボレーションだけでなく、今年度はイオン液体という特殊媒体のダイナミクスへの理解も深めた。特に長鎖アルキルを有するイミダゾリウム系イオン液体が極めて幅広いダイナミクスレンジで階層的な構造をとっていることを中性子スピンエコーの結果から明らかにした論文はイオン液体を研究対象とするあらゆる研究者にとっても意義深い成果であると考えている。他にも、種々のイオン液体/高分子組成を有するイオンゲルのガラス転移温度を断熱型熱量計で精密測定した論文、イオンゲルの微視的構造とダイナミクスの相関を日・米・仏に設置された三台の大型中性子散乱装置の結果からつまびらかにした共同研究成果は、今後のイオン液体高分子材料設計に重要な指針を与えると確信している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は当初の実験計画の想定を超えた発見があった。その一つが活性プロトンを有するイオン液体 (PILs)が、Belousov-Zhabotinsky(BZ)反応という化学振動反応のメディアになるという実験事実である。BZ反応自体は古くから研究されてきたテーマであるが一般的に硝酸や硫酸などの強酸添加条件で進行する。興味深いことにPILsを用いるとこれら強酸を添加することなく、穏和な条件でBZ反応を進行させることが可能で、かつ従来系(強酸添加系)に比べて振動が安定で長持ちするという現象が見いだされた。総じて予定通り順調に研究成果を発信できただけでなく、新たな研究の萌芽も発見しており当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画の段階ではイオン液体を用いた自己集合(平衡状態や準安定状態で形成される空間構造)を用いた機能性材料の設計や、分子システムの構築を目指していた。しかし当初の目論見を超えて本年度は上述のようにイオン液体を用いた散逸構造(非平衡の開放系で形成される時空間秩序)に関しても興味深い結果を得た。さらには最近ではブロック共重合体が形成する自己集合から成る構造体が散逸構造によりサポートされるような特殊自己組織化現象も見いだしている。イオン液体を用いた「自己集合」だけでなく「散逸構造」「散逸構造に支持された自己集合」という3つの自己組織化構造を当研究提案発の概念として今後はさらに積極的に外部に発信していく。
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