研究概要 |
キクイガイ科二枚貝類は,深海に沈んだ木材に穿孔して生活し,木を餌資源とする極めて特異な分類群である。共生細菌の獲得が本科の多様化を引き起こしたという仮説を検証するため,平成24年度は以下の項目を実施した。1.東支那海の漸深海で調査を実施し,10種の未記載種を見いだした。これらには,昨年度の分子系統解析等に基づくキクイガイ科内の体系再編で明らかとなった4つの分類群を繋ぐと予想される,極めて重要な種類が含まれており,予察的な検討を進めた。2.パプアニューギニアにおいて調査を実施した結果,驚くべきことに,ごく浅海域にもキクイガイ類が棲息することが初めて明らかとなった。この発見は従来の知見を覆すものである。当該種は未記載種の可能性があり,詳細な検討を進めている。3.キクイガイ類で見られる着底後幼生様の小型個体が矮雄であることを初めて明らかにした論文を,これまでの研究成果と合わせてJournal of Molluscan Studies誌上で発表した。4.キクイガイ類の共生細菌の伝播機構を明らかにするため,キクイガイの生殖巣の超薄連続組織切片を作成,透過型電子顕微鏡下で細菌の存在を観察した。その結果,何れの個体,細胞においても細菌像は得られず,共生細菌は水平獲得されている可能性があることが示唆された。5.木材食のメカニズムを明らかにするため,海洋研究開発機構との共同研究として,キクイガイを対象としてトランスクリプトーム解析を実施した。その結果,多様な糖質加水分解酵素関連遺伝子が見いだされた。窒素・炭素同位体比測定に基づく先行研究で示唆されたように,キクイガイ類はセルロースを炭素源に,共生細菌を窒素源として利用していると考えられ,これまで言われてきた「共生細菌によるセルロース分解説」は見直されるべきことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究によって,キクイガイ類の共生細菌は鯉以外には存在せず,水平獲得されている可能性が高いことが明らかとなり,概ね順調に進展している。トランスクリプトーム解析のデータが得られことも大きな進展の一つであり,より高精度な実験を遂行するための基礎的データを構築できたことから,最終年度で更なる進展が得られるよう尽力する。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度も,概ね当初の予定に則って研究を進める。しかし,共生細菌の培養等のハンドリングが困難であることから,細菌の培養系を対象とした実験を中止する。その一方,キクイガイ自体のセルラーゼ遺伝子群に特に注目し,蛍光in situハイブリダイゼーション(以下,FISH)を重点的に実施して,本研究の附加的内容である,キクイガイ類の木材食のメカニズムを明らかにすることにも取り組む。
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