本研究は、Chern-Simon理論の量子化から2+1次元の量子重力理論を定式化する事を目標としている。Chern-Simons理論は、2次元のLiouville理論や、3次元の超対称ゲージ理論、4次元の位相的ゲージ理論と対応することが知られており、この背後にはM5ブレーンという6次元の膜の物理がある。よって、Chern-Simons理論を単体で捉えるのではなく、M5ブレーンを頂点とする様々な場の理論との対応の中に位置づける事で理解することが重要である。本年度は、量子重力理論を構築するための基礎付けとして、量子論を非摂動的に解析する手法に焦点を当てて研究を行った。 まず、境界を持つ2次元超対称ゲージ理論の分配関数を、局所化計算を用いて厳密に求めることに成功した。2次元超対称ゲージ理論は、量子重力理論の有力な候補である超弦理論と深い関わりがある。この研究によって、超弦理論においてDブレーンと呼ばれる高次元物体の、セントラル・チャージと呼ばれる物理量を厳密に求める事ができる。この研究は、ミラー対称性、Dブレーンの安定性や、Calabi-Yauコンパクト化の研究において、重要になると思われる。 また、格子場の理論における経路積分を、Lefschetz thimbleと呼ばれる特別な積分路において定義し、これをハイブリッド・モンテカルロ法により数値的に評価した。これは、経路積分を非摂動的に評価する事について、根本的な問題を探るものである。また本研究は、符号問題と呼ばれる、経路積分を確率的に評価する際の困難を解消するのに、有力なアプローチであると考えられる。 そして、Liouville理論の相関関数を、Rieman-Hilbert解析により厳密に求める事が出来た。Liouville理論は2次元の量子重力理論を記述するものとして研究が行われてきたが、3次元のChern-Simons理論とも関わりがあり、M5ブレーンによる現代的なアプローチからも重要な存在である。本研究で開発したExact WKB curveの手法は、先に述べたM5ブレーンの物理を示唆しており、それ自体興味深いものである。
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