研究課題/領域番号 |
11J08006
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
柳沢 史明 早稲田大学, 文学学術院, 特別研究員(PD)
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キーワード | アフリカ美術 / 芸術の発見 / フランス植民地主義 / 黒人文化運動 / 文化表象 / 人種主義 |
研究概要 |
フランスを中心としたアフリカ彫刻の言説史を研究するにあたり、本年度は特にフランス国立図書館や国立アーカイブ等を利用し、主に1910年代から40年代の雑誌、新聞、広報誌等を渉猟した。分析の中心となった刊行物は、まず、アフリカ彫刻及びモダニズム絵画の美術商P.ギヨームによって刊行された『パリの芸術』(Les Arts a Paris)があり、特に20年代以降のアメリカにおける黒人教育とアフリカ芸術に関するアメリカの医師であり美術収集家A.バーンズによる記事を中心に同誌の分析を進めた。続いて、マルティニーク系知識人らによる、ネグリチュード運動揺藍期を特徴づける『アフリカ通信』(Les depeches africaines)、『黒人世界誌』(La.revue du monde nolre)の研究に着手し、L.S.サンゴールの芸術論に強い影響を与えた人物であるバイ=サルツマンによる活動及び論考の分析を行った。加えて、先行研究ではあまり触れられてこなかったが、『アフリカ通信』へのP.ギョームの関与が明らかとなり、アフリカ美術の収集・批評家と黒人文化運動との結節点の一つとして次年度以降更なる分析を行う予定である。他方で、フランス植民地領西アフリカにおける教育の指針を提示する『フランス領西アフリカ教育公報』(Bulletin de l'enseignement de l'A.O.F.)を通じて、「原住民芸術」というより広範囲な範疇によるアフリカ芸術の分類、歴史化、教育、刷新等が扱われている点に注目し植民地主義の歴史研究に着手した。これらの資料媒体は、アフリカ彫刻が単なる美術的観点からの批評を超え、多用な形で援用されながら、「芸術」として概念形成されてきたことを浮き彫りにし、次年度以降の研究をより豊かなものとするだろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画に沿い、本年度は両大戦間期を中心とした雑誌記事や新聞等を渉猟できたと同時に、先行研究では指摘されてこなかった論者や記事の分析を通じて、細かい歴史的事実や言説の変化を分析することができた。 他方で、フランス国内においても、30年代のアフリカやマルティニック出身の知識人らによる刊行物は必ずしも全て揃っているわけではなく、アルシープにも存在しない巻号に関しては別の方策を講じる必要があるようだ。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き資料の渉猟と論文執筆・学会での発表に向けた資料整理が中心となる。特にフランスでの資料収集を通じて明らかとなった、20年代の保守系美術批評家によるアフリカ彫刻批判や、キリスト教使節団による多くのアフリカ彫刻論等は、執筆された政治的・文化的背景や意図(20年代後半の外国人排斥の流れや、ライシテ確立以降のキリスト教使節団らによるアイデンティティの模索)を含め研究を進める価値があるだろう。 また、当初予定していた「パン・アフリカニズム」に関しては、当時の会議録等における芸術論や文化論の少なさを鑑みて、別の観点からのアプローチが必要と思われる。
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