研究課題/領域番号 |
11J08006
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
柳沢 史明 早稲田大学, 文学学術院, 特別研究員(PD)
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キーワード | 芸術学 / アフリカ芸術 / 植民地主義 / 両大戦間期フランス |
研究概要 |
科研費採択課題に沿って、本年度は海外(フランス、パリ)での資料調査(主に両大戦間期の新聞、雑誌)と論文執筆を中心に研究を行った。当初の課題通り、本年度の研究は三つのテーマに大分することができる。一つはフランス植民地行政とアフリカ芸術との相互的な影響関係であり、とりわけ植民地行政官G. アルディに焦点を当てた。パリの国立図書館及びケブランリー美術館の図書館にてアルディの論文及び著書を渉猟し、アフリカ芸術受容の文脈の中でアルディのアフリカ芸術観そして「原住民芸術」観を分析し、論文として発表した。二つ目のテーマは、セネガル出身の知識人・政治家らがどのような形で西欧におけるアフリカ芸術受容に関与していくかという問題だが、このテーマは、三つ目のテーマである、マリ出身の画家K. シディベ(1900?・1930)の資料調査(主にパリでの展覧会が開催された時期【1929年10月1の日刊新聞や雑誌)の過程で、興味深い形として結実してくることがわかった。つまり、新興の芸術分野である「アフリカ美術」、その中でも、とりわけ非アフリカ的とみなされていた「絵画」というジャンルにて人気を博したシディベの絵画及び彼の活躍に対し、植民地支配地域の知識人らは、一方で植民地地域の人々を鼓舞し新たな領域でのアフリカ黒人の活躍を予期させる存在として熱狂的に語りつつも、他方で過剰な評価の産物であるという冷静な判断をもとに着実な政治的参与の必要性へと帰着していく。シディベに関する研究発表及び論文執筆は平成25年度行う予定である。本年度の研究は、狭義の美術界に限定されない形でのアフリカ芸術受容の言説をたどることの重要性を改めて認識させてくれるものであったといえよう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
海外調査を通じ日本では参照不可能な資料を数多く渉猟できたこと、そして海外での研究者との情報交換は、本研究を大きく進展させるものであった。他方で、現地においても参照不可能な資料や散逸してしまっている資料が幾つかあったことは、本研究の目標を十全に達成させることができなかった要因であったといえよう。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、植民地行政及び黒人文化運動という二つの立場によるアフリカ芸術への言説上の関与を精査していくことになるが、同時に、両大戦間期からアフリカ諸国の独立へと至る時期の歴史的経緯を、アフリカ芸術分析の変遷として捉え返した考察を行うつもりである。とりわけ、M.レリスによる論考を中心に据え、既存のアフリカ芸術論がフランス人類学の中で、そしてレリスという人物の中でどのように発展あるいは排除されていったのかを辿るつもりである。
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