2011年度、計画どおりに、一次資料であるメルロ=ポンティの著作の読解を進めた。そのさいに、芸術および哲学(思考)という活動が、「知覚」という人間の本質的な営為の拡張あるいは、追究である、とメルロ=ポンティが位置づけたことを読みとり、メルロ=ポンティとエチエンヌ・スーリオの思想との親近性をあきらかにした。こうした作業は、本研究が掲げるフランスの現象学的美学の系譜研究の基盤づくりをなしえているという点で、堅実かつ充実した第一歩である。 上記の作業は、資料の収集、精読、分析、論文執筆というサイクルで進められた。まず、一次資料(下記に記載)を収集したうえで精読を行い、ついでその内容を分析した。また、精読と同時に、後の内容分析のためのキーワードリスト作成の準備を進めた。精読のさいには、キーワード(「知覚」、「感覚」、「事物」、「対象」、「身体」)およびそれに類する概念を含むテクスト、そのコンテクストを示す記述をピックアップした。随時メモをとるかたちでデータ化していった。また随時、一次資料の読解のための二次資料を活用しながら読み進めた。 また、本研究があつかう「知覚」の問題系のなかで、「飽き」の概念をあつかう試みを開始した。「飽き」は、人間にとって重要なテーマとみなされながら、哲学上の問題としては、これまであつかわれてこなかった。たほうで、2000年代に入り、ラース・スヴェンセン『退屈の小さな哲学』(2005)をはじめとし、いくつか「退屈」をテーマとする哲学的論考が出版された。退屈論のなかで「飽き」概念が語られるゆえ、第一段階のアプローチとして、退屈を論じる文献を収集、読解した。
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