研究概要 |
生活習慣の欧米化等により,近年我が国においても虚血性心疾患が急増しており,虚血性心筋症の治療成績を向上させることは喫緊の課題である.虚血性心筋症の外科治療,特に左心形成術を的確に行い患者の心機能を回復させるためには,心筋バイアビリティ(虚血障害心筋が血行再建によって機能を回復出来る能力)の評価が必須である.本研究では,ラマン散乱光の持つ分子情報をもとにした心筋バイアビリティイメージングの基盤技術を確立することである. 本年度は,昨年度に構築したシングルレーザー非線形ラマン顕微鏡の最適化,特にフォトニック結晶ファイバーの最適化を行った.その結果,指紋領域と呼ばれる500-2000cm-1からCH領域と呼ばれる2500-3500cm-1までのラマンスペクトルを一度に取得可能なフォトニック結晶ファイバー光学系を構築した.このシステムを用いてコヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)顕微分光システムを構築した.CARS顕微分光システムによって,ラット組織(神経,結合組織,脂肪組織など)のラマンスペクトルの取得を行い,自発ラマン散乱分光で得られるような各組織の特徴をCARS顕微分光システムでも取得可能であることを示した.本成果は,国際光学会(SPIE)が主催するPhotonics West 2013にて口頭報告を行った. さらに,ラマン分光法の術中組織イメージングへの応用に関する考察も昨年度に引き続き行った.昨年度は,ラット組織を用いて神経と他の周囲組織にラマンスペクトルの差異が見られることを明らかにした.本年度は,この差異が統計的にも優位な差として認められること,またその差異を示す神経を構成する物質の同定に成功した.また,ヒト前立腺周囲組織でも同様の実験を行い,ヒト組織とラット組織との差異などを明らかにした.本成果は,学術論文(Hitochemistry and Cell Biology)に掲載され,また国内学会,国際学会などでも報告を行った.
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