研究概要 |
本研究では,追尾照射の実用化を目標として,超高精度な肺腫瘍位置変動予測法の開発を行っている.追尾照射は,X線透視画像より腫瘍位置を画像計測し,計測位置に応じて放射線照射範囲を制御することよって実現される.透視画像撮影から計測位置への照射までには,画像処理や照射制御など数百ms程度の処理時間が必要である.この間に腫瘍は最大数cm移動するため,臨床上看過できないレベルの照射位置ずれが生じる.位置ずれなく追尾照射を行うために腫瘍の未来位置予測が求められている. 肺腫瘍位置変動予測法として,これまで提案した時変季節性自己回帰(Time-variant seasonal autoregressive, TVSAR)モデルは,呼吸性移動の主要な変動成分である揺らぎを伴う周期的成会を適応的に予測可能であり,その1秒先の予測誤差は1mn未満である.一方,従来のTVSARモデルでは,呼吸状態が不安定な場合に生じる周期的成分とは異なる変動成分を考慮しておらず,予測精度が低下するという課題があった.そこで本年度は,TVSARモデルの性能と信頼性向上のため,呼吸性移動に見られるさまざまな変動を予測できるようにTVSARモデルを拡張した.拡張したモデルでは,従来のTVSARモデルによる呼吸性移動の周期的成分の前向き予測に加えて,その他の成分に対応する予測残差を適応的に補償する.はじめに従来のTVSARモデルによる後ろ向き予測を行い,残差時系列を生成する.ついで,残差時系列を適応的自己回帰モデルにより前向き予測する.拡張モデルの最終的な予測は,周期的成分の前向き予測とその残差の前向き予測で構成される.様々な変動を含む臨床データ105例を用いた予測実験より,拡張したTVSARモデルは従来のTVSARモデルを上回る予測性能をもつことが確認された.また,拡張したモデルが従来の季節性自己回帰モデルを包含するより一般的なモデルであることを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,(1)肺腫瘍位置変動の振幅・周期の双方を考慮した予測法の理論構築,(2)症例実データ多数を用いた予測精度改善・信頼性向上,(3)自然かつ安定な呼吸を創出する呼吸統制法の開発である.本年度は(1)および(2)については,従来困難であった不安定な呼吸性腫瘍位置変動に適応可能な予測法を開発し,また,その予測精度が臨床105例のデータを用いた評価より,開発した予測法が従来法よりも高精度であることが確認され,当初計画以上に進展した.一方,(3)呼吸統制はごく初期の検討にとどまっており,やや遅れているといえる.以上,総合すると現在までの達成度はおおむね順調に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
腫瘍位置予測法については,本年度のモデル拡張により,様々な呼吸性移動についても適応しうるものとなった.しかし,その予測精摩は,著しく不安定な呼吸状態をとる症例では,臨床上求められるレベルを満足しない場合がある.今後は,高精度に予測できない症例について,予測精度低下の原因を考慮した予測法を開発する.また,予測困難な呼吸状態を抑制し,予測容易な呼吸状態を誘導する呼吸統制法の開発を進める.このとき予測容易な安定呼吸を継続的に誘導するためには,患者が苦痛なく自然に呼吸できるような統制方法が必要である.そのために,一定の呼吸間隔へと誘導するのではなく,自然呼吸の持つ揺らぎを考慮した統制方法について特に検討していく.
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