研究概要 |
本研究では,正確かつ高精度な肺腫瘍位置変動予測による追尾照射の実用化を目標としている.現在広く普及している汎用放射線治療装置を用いる場合,X線透視画像による腫瘍位置の画像計測と,マルチリーフコリメータによるビーム照射位置の動的制御などによって追尾照射は実現される.このとき,計測から照射までには,最大数百ミリ秒程度の処理時間を要するが,この間に腫瘍は最大で数センチメートル移動しうる.このような時間遅れを補償し,正確な追尾照射を実現するため,腫瘍の未来位置予測が必要とされる. 本年度は,肺腫瘍位置変動予測法としてこれまでに提案している時変季節性自己回帰(time-varying seasonal autoregressive,TVSAR)モデルの予測性能改善を目的として,手法の拡張を更に推し進めた.従来のTVSARモデルでは最新時刻から直近の呼吸波形数個から予測値を生成する.しかし,直近の呼吸波形数個が予測の観点から最適であるとは限らず,それよりも過去の呼吸波形がより将来の変動をよく表現する場合もあり得る.そこで,利用可能な過去の全データ中から,最新の呼吸波形との類似度の観点から,予測に用いるデータを取捨選択する方式へと拡張した.医療機器メーカからの要請に基づき,本予測アルゴリズムを性能評価用ソフトウェアとして実装・提供するなど,実用化に向けた進展もみられた.具体的には,メーカ技術者へのアルゴリズム説明,評価用データセットの供与,並びに評価用プログラムと操作性向上のためのグラフィカルユーザインタフェースを備えたソフトウェアの開発を行った.本ソフトウェアは現在,医療機器メーカにおいて評価試験が行われている.また,予測技術を応用した腫瘍位置計測法の高速化や治療用X線透視画像を用いた計測性能向上に関する検討を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究成果により,多数の実症例データに対する世界トップレベルの予測性能を達成し,他の最新手法と比較して優位にあることを実証した.また,実用化に向けたメーカとの検討も当初計画以上に進展した.一方,呼吸統制法の開発に関しては,呼吸状態計測システム構築・実験の進捗が当初予定より遅れている.以上,総合すると現在までの達成度はおおむね順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
腫瘍位置予測法に関しては,本年度のモデル拡張を含め,様々な呼吸性位置変動を正確かつ高精度に予測しうるものである.ただし,予測誤差の最悪値はしばしば10mmを超えることがあり,このような予測値に基づいて照射を継続することは臨床上看過できない.そこで,予測性能向上の継続的な取り組みとともに,得られた予測値の不確実さを示すための手法についても検討を進める.また,呼吸統制に関しては,計測システムの構築・実験を進め,安定的に正確な予測を可能とし,かつ患者固有の揺らぎを考慮した負担の少ない自発呼吸へと誘導するような統制法の開発を進めていく.
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