研究概要 |
ストリゴラクトン(SL)は、分枝を抑制する植物ホルモンとして知られている。イネにおいて、SLの生合成や受容に関与する遺伝子の欠損変異体は、現在6つ報告されており、それぞれの原因遺伝子が明らかにされているが, 分枝のメカニズムについて未だ不明な点が多く、それを明らかにするためには関与している他の因子の単離と同定が必要である。SLは、植物の共生菌でありリン酸を植物に供給するアーバスキュラー菌根(Arbuscular mycorrhizal : AM)菌の菌糸誘導促進シグナルとして機能することも明らかにされている。また、このSLは、植物体がリン酸欠乏にさらされたときに、根の部分で合成され、植物体の中を通って地上部のシュートへと移動することも示唆されている。しかし、SLの受容・信号伝達のメカニズムについては依然として不明な点が多い。本研究では、SLの分子抑制メカニズムを解明することにより、それにより得られた知見とAM菌共生との関連を明らかにすることを目的として行った。SL受容・伝達機構に関与する新規の因子を探索するために、分枝数に表現型を示す変異体の探索をおこなった。その結果、分枝が著しく抑制された変異体が得られた。この変異体は、栄養成長期ではほぼ全く分枝を形成しない。分枝過剰変異体であるdlOとの二重変異体では、分枝数は抑制された。さらに、リン酸欠乏下において根から分泌されるSL量をこの変異体において野生型と比較したところ、SLの分泌量は著しく低下していることが明らかになった。以上より、この変異体の原因遺伝子は、SL受容・信号伝達のほうではなく、SLの合成に関与している可能性が示唆された。しかしながら、この変異体では根の生育が非常に悪く、根からの栄養分が十分に吸収できないために地上部の分枝数が減少したため、SL量が減少している可能性も考えられる。 植物の分枝は、栄養成長と生殖成長の両方に見られる。植物個体の中で、栄養成長の分枝と生殖成長の分枝とは、トレードオフの関係にあり、それらの分枝数は反比例する傾向があることが知られている。栄養成長の分枝を抑制するのにSLが大きく関わっていることは、すでにいくつもの報告があるが、生殖成長の分枝に関してはまだよくわかっていない。そこで、生殖成長の分枝に関わるTAW1遺伝子に関する研究についてもさらに取り組んだ。TAW1遺伝子は、イネにおける生殖成長の分枝すなわち穂の枝分かれが多くなる変異体taw1-Dの解析により同定された遺伝子である。taw1-D変異体においては、TAW1遺伝子の発現量が野生型よりも高く、穂における分枝が増加する。本年度は、このTAW1遺伝子がどのように発現制御されているのかについて解析した。
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