研究課題/領域番号 |
11J08237
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
大柴 雄平 東京工業大学, 大学院・総合理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 遺伝子組み換え酵素 / 分子認識 / アビジン / P450cam / CDスペクトル / コンジュゲート / コンフォメーション変化 |
研究概要 |
本研究は、生体内物質の高度な機能から着想を得た、複数の分子認識により複数の反応を制御するダブルコントロール型人工アロステリック酵素を、酵素P450camの遺伝子組み換え体(3mD)と分子認識ポリマーの複合化という汎用性のある手法で開発することを目的とする。 今年度は、まず、分子認識部位にスペーサーを有するビオチン、シグナルにアビジンを選定して、不可逆であるがよりシンプルな系でコンセプトの実証を試みた。 スペーサー(alkyl_2,16Å)を有するビオチンのマレイミド基と3mDのチオール基とを反応させ、ビオチン化酵素(ビオチン化3mD)を作製した。作製したビオチン化3mDにアビジンを過剰量加え、アビジンと結合後、ゲル濾過により未反応3mDやアビジンを分離した。すると、アビジン結合後、ビオチン化3mDの活性は、結合前の1/6ほどに低下した。また、反応速度解析の結果、結合前後でKmはほぼ変わらないものの、V_<max>が大きく低下しており、アビジン結合後、酵素の触媒能が大きく低下していることが分かった。さらに、CO付加による吸収スペクトル測定及びCDスペクトル測定により、アビジン結合前後で3mDの二次構造は保持されている一方、アビジン結合後、3mDの活性中心付近の構造が変化することが分かり、これがアビジン結合後に活性が抑制された原因であることが示唆された。 次に、上記alkyl_2より長いスペーサー(PEG_2,29Å)を有するビオチンをコンジュゲートした3mDでは、アビジン認識後、alkyl_2の場合とは異なる活性抑制効果が表れた。つまり、スペーサー長、即ち結合したアビジンと3mD表面間の距離の違いにより異なる現象が発現することが示唆された。 今年度の研究により、目的物質の認識によりタンパク質のコンフォメーション変化を誘起し、ドラスティックな活性低下を引き起こすことが可能であることが証明された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
アビジン-ビオチン結合を利用した系で、結合前後の活性評価、反応速度解析、CDスペクトル等により活性抑制のメカニズムの解明まで行った。また、ビオチン化3mDのビオチンとコンジュゲートした3mD間の長さに相当するスペーサー長が異なると、活性抑制効果や活性抑制メカニズムが異なることも実験結果から示唆された。当初のコンセプトである分子認識ポリマーを用いた系とは異なるが、アビジン認識に伴うビオチン化3mDの活性変化を、マクロな現象論からミクロな構造変化まで評価することができたのは、大きな進展であるといってよいと考える。今年度得られた成果は、分子認識部位として他の材料を選定した際に重要な知見になると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
分子認識ポリマーよりシンプルな系として、分子認識部位にスペーサーを有するビオチンを選定してアビジンシグナルによる酵素の応答性を評価した。すると、この系では、結合したアビジンが酵素の活性ポケットの蓋として機能し基質拡散を阻害するのではなく、アビジン結合により酵素の活性中心部位の構造変化が誘起されることで活性がコントロールされることが分かった。また、スペーサーを長くすると、短い場合とは異なる活性抑制効果が見られ、何かしらの違ったメカニズムに起因していることが示唆された。これに関しては、次年度、反応速度解析、活性抑制効果の経時変化、CDスペクトル等で詳細に検討していくこととする。さらに、当初の計画で想定していた、分子認識部位に分子認識ポリマーを用いることで人工アロステリック酵素を作製し、その応答性評価も行っていく。
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