研究課題
腫瘍の血管は正常な血管と比較して構造的な異常がある。例えば、走行が乱雑で構造が未成熟であるため、栄養・酸素の供給が不十分となりやすいことが知られている。これらの異常性は腫瘍へ有利に働くと考えられている。そのため、腫瘍血管の異常性について理解することは、今後のがん治療において大きな意義があると考えられる。腫瘍の血管から単離した腫瘍血管内皮細胞は正常な血管と比べて、様々な形質異常を持つことを我々の研究グループでは報告しできた。例えば、腫瘍血管内皮細胞では正常血管内皮細胞と比較して、血管新生能が高い。こうした細胞レベルでの異常が腫瘍血管の異常性に関与することが予想されるが、腫瘍血管内皮細胞の異常がどのように引き起こされるか、という点については明らかとなっていない。本研究の目的は、これまで不明であった腫瘍血管内皮細胞の様々な異常性獲得に、がん細胞から分泌されたtumor-derived microvesicles (TMV)が影響するかどうかを調べることである。今年度の研究において、高転移性メラノーマ由来TMVでは低転移性メラノーマ由来TMVと比べてmiR-1246の含有量が増加していることを見出した。前年度までの結果において、TMVは血管内皮細胞に取り込まれたことから、miR-1246が血管内皮細胞へ取り込まれた際の影響に関して検討を進めた。miR-1246と同様の配列を持つoligonucleotide (mimic)をヒト正常血管内皮細胞へtransfectionしたところ、①低血清培養下において死細胞率が低下すること②接着能・運動能が増加すること③血管新生関連遺伝子として知られるIL-6, COX-2の発現が亢進することが分かった。また、TMVのin vivoにおける作用を検証するため、マウスを用いて体内動態を観察した。TMVを尾静注した際の血中半減期は約10時間前後であり、主に肝臓と脾臓へ集積することが分かった。上述した研究内容については、日本DDS学会・日本癌学会等、計3件の学会発表をおこなった。
2: おおむね順調に進展している
2年度目の計画に基づき、TMVを用いた動物実験モデルの検討を進めた。尾静注したTMVの体内動態観祭から、血中のTMVが肝臓・脾臓へ主に集積し、原発巣や肺などの他臓器には少量であることが分かった。これらの結果から、循環TMVの血管内皮細胞への作用は肝臓・脾臓へ着目する必要があると考えている。また、TMVの内容物としてmiR-Xを同定し、血管内皮細胞における生理活性の一つとして低血清状態に対する抵抗性や血管新生関連因子の発現亢進につながる可能性が示唆されたため、今後はこれらの作用機序について詳細な検討をおこなう予定である
今年度までの検討において、本来の仮説である原発巣の腫瘍血管内皮細胞に対するTMVの取り込みに関して検討することができていない。そこで、腫瘍組織から単離直後の腫瘍血管内皮細胞をより高感度な系であるフローサイトメトリーを用いて検討する予定である。また、TMV由来miR-1246に関しては、miR-1246 transfectedヒト正常血管内皮細胞を用いて機能及び作用機序の検証をおこなう。具体的な検討方法としてマイクロアレイ及びantisensemiR-1246 (miRNA 阻害oligonucleotide)を用いることを予定している。
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Pathol. Int.
巻: 63(1) ページ: 37-44
10.1111/pin.12031