1.In vivoマウス高酸素負荷網膜血管新生モデルにおけるkallidinogenaseによる眼内VEGF切断作用の検討 前年度において、kallidinogenasがVEGF切断作用を有することがin vitro試験で明らかにした。Kallidinogenaseが網膜血管新生抑制剤になり得るかどうかを検討する際、実際の生体内でVEGFが切断されるかどうかを証明することは非常に重要である。本検討では、in vivo高酸素負荷網膜血管新生モデルのマウス網膜を用いて、顕著な増加が認められるVEGFに対するkallidinogenaseの切断作用について検討した。Kallidinogenase投与により、切断されたVEGFが検出され、in vitro試験と同等の結果が得られ、生体内においてもkallidinogenaseがVEGF切断活性を有することが明らかになった。 2.Kallidinogenaseの正常血管新生に対する作用 生理的な血管新生に関与するVEGF121および血管新生抑制に働くPEDFに対して、kallidinogenaseが切断作用を示さないことは既に明らかにしている。そこで、実際に生体内、特に正常な網膜血管新生に対するkallidinogenaseの作用について検討した。血管新生抑制剤の開発において、正常血管新生に対する作用が副作用の面で非常に重要視されており、医薬品開発を考える上で重要な検討である。仔マウス生後3日目から生後7日目までの5日間kallidinogenaseを投与して、網膜における生理的な血管新生に対するkallidinogenaseの作用について検討した。血管の面積(area)、長さ(length)、分岐点数(branch points)、枝数(segments)の全ての評価項目において、対照群と比較してカリジノゲナーゼ投与群に明らかな差は認められなかった。Kallidinogenaseの末梢投与が網膜における生理的な血管新生に対して影響を及ぼさないことを強く示唆している。 3.虚血誘発網膜神経障害に対するkallidinogenaseの作用 一過性黒内障を含む血流不全による眼虚血疾患は慢性化すると失明に至る疾患であり、また糖尿病網膜症および未熟児網膜症も共に網膜中に虚血状態が惹起される疾患である。そこで、眼虚血に対してkallidinogenaseが有用であることが示されれば、糖尿病網膜症を含む網膜血管新生疾患の医薬品開発においても重要なデータになり得る。左外頸動脈および左翼口蓋動脈を結紮することで網膜神経節細胞死を誘発させるモデルにおいて、kallidinogenaseは視機能を回復させ、神経細胞死を抑制した。Kallidinogenaseは眼虚血によって上昇したeNOSのリン酸化をさらに増大させ、NF-kBのリン酸化を著明に減少させた。 以上、kallidinogenaseは血流不全による眼虚血疾患に対して有用である可能性が示唆された。
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