研究課題
私の研究テーマは4次元時空上の超対称ゲージ理論の強結合領域の物理を理解することである。この領域は弱結合領域と異なり摂動的な計算では物理量を求められないので、強結合領域と弱結合領域との間に成り立つS双対性と呼ばれる性質を利用することが有用である。しかしこのS双対性は厳密に証明されていないため、どの範囲まで成り立つか確認することが重要である。一方で、近年4次元時空R^4およびS^4上の超対称ゲージ理論と2次元の共形場理論の一種であるLiouville理論との間で物理量の値が厳密に一致するという予想が、Alday,Gaiotto,Tachikawaの3人によってなされた。この予想を以下AGT予想と呼ぶ。この予想を使うと4次元理論のS双対性が、2次元理論から予言できる点で有用である。またこの予想は、M理論に存在する5+1次元的物体であるM5ブレインを記述する理論から導かれるものだと考えられており、M理論の理解のきっかけになることを期待している。私は当研究室の奥田拓也助教と京都大学基礎物理学研究所の瀧雅人研究員(当時)とともに、4次元時空S1xR3上で、'tHooftループ演算子の期待値を数学のテクニックを使って厳密に計算し、AGT予想の通りLiouville理論の物理量と一致することを確かめた。Liouville理論の作用に登場するパラメータbが1でない時も4次元ゲージ理論のループ演算子の期待値と値が一致することを確かめた初めての例である。また、2次元側では、Liouville理論の言葉を使う代わりに、2次元面上のゲージ場の言葉を使っても同じ式を書くことができることを確認した。こちらの方がM5ブレインを記述する6次元理論との関係が少し知られているため、M理論の理解のきっかけになると期待している。
1: 当初の計画以上に進展している
AGT対応を確かめた論文を2つ発表することができ、これは当初の研究の目的であった重力理論の候補である、M理論についての理解を深めるものだと期待できる。
AGT予想の拡張として、R^4の各点を適当な別の点と同一視した4次元時空を考え、その上で超対称ゲージ理論を考えると、2次元時空上の超対称Liouville理論の物理量と一致することが近年確認された。この対応は4次元ゲージ理論のS双対性や、M理論の理解に新しい視点をもたらすと期待している。奥田助教、瀧研究員、そしてSISSAの丸吉一暢研究員とともに今後この対応について研究するつもりである。
すべて 2012
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件)
Journal of High Energy Physics
巻: Volume:2012, Issue 4 ページ: 1-53
10.1007/JHEP04(2012)010
Nuclear Physics B
巻: Volume 861, Issue 3 ページ: 387-402
10.1016/j.nuclphysb.2012.04.001