研究課題/領域番号 |
11J08582
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鎌田 歩樹 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 暗黒物質 / 宇宙構造形成 / 長寿命荷電重粒子 |
研究概要 |
構造形成において暗黒物質は主導的な役割を果たしたと考えられており、構造形成は暗黒物質の素粒子的性質を探る上でよい実験場である。標準的なACDM(暗黒エネルギー+冷たい暗黒物質)模型が予言する物質密度揺らぎは、観測される宇宙大規模構造(銀河・銀河団以上の構造)を説明する事に成功している。一方ACDM模型には、天の川銀河中に観測されている倭小銀河の数が、シミュレーション中の天の川銀河程度の大きさのハローに存在するサブハローの数よりも一桁程度小さいという問題(倭小銀河問題)が指摘されている。この問題を解決する候補の一つとしてWDM(温かい暗黒物質)が提案されている。WDMはその速度分散が圧力のように働き、小スケール構造形成を妨げる。また、 LLCHAMP(長寿命荷電重粒子)も倭小銀河問題を解決しうる。宇宙初期に作られたLLCHAMPはクーロン散乱により電子及び陽子と運動量をやり取りし、高温プラズマと音響振動するため、物質密度揺らぎの重力成長は妨げられる。LLCHAMPはいずれ崩壊し、電気的に中性な暗黒物質に変わる。LLCHAMPの崩壊の際、高温プラズマが音響振動し続けようとするのに対して、中性な暗黒物質は振動を止め重力ポテンシャルの底に停まろうとする。この際お互いの相互作用が摩擦のように働き、暗黒物質及び高温プラズマの密度揺らぎが共にならされてしまう(これを音響減衰と呼ぶ)。LLCHAMPの崩壊後、中性の暗黒物質は従来通りの重力成長をするため、物質密度揺らぎには音響減衰に対応するカットオフが残る。そのカットオフスケールはLLCHAMPの寿命で決まる。私は論文[3]でLLCHAMPの音響減衰がWDMの速度分散と同様に倭小銀河問題の解決策となる事を示した。しかし、これらのモデルが他の構造形成の観測と矛盾してはならない。そのような小スケールの構造の探査は、遠方クエーサーのスペクトル中のLyα雲による吸収線を用いて行うことができる。Lyα雲の光学的深さはその密度をトレースしており、スペクトルの一次元フラックスパワースペクトルについてシミュレーションと観測を比較することにより、物質密度揺らぎを探査することができる。私はLyα雲による吸収スペクトルからLLCHAMPの寿命やWDMの質量に制限を加える事を目標にしている。さらに論文[3]において、LLCHAMPと種々のWDMモデルの両者について適切に定義されたカットオフスケールを同じくすれば、線形物質密度揺らぎにおいて、カットオフスケールより十分小さいスケールでの揺らぎの減衰の仕方(ダンピングテイル)にしか違いが出ないことを示した。また、非線形成長の後には、ハローやサブハローの質量関数及びハロー中のサブハローの動径分布等ではその違いを区別できないことを指摘した。Lyα雲による吸収スペクトルを用いると、より高赤方偏移(z~2-5)の非線形成長が弱いと期待される構造を調べることができるので、ダンピングテイルにおける違いが区別できる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
私はLyα雲による吸収スペクトルからLLCHAMPの寿命やWDMの質量に制限を加える事を目標にしている。さらに論文[3]において、LLCHAMPと種々のWDMモデルの両者について適切に定義されたカットオフスケールを同じくすれば、線形物質密度揺らぎにおいて、カットオフスケールより十分小さいスケールでの揺らぎの減衰の仕方(ダンピングテイル)にしか違いが出ないことを示した。これは、Lyα雲による吸収スペクトルからの「ある」モデルに対する制限を「全て」のモデルに拡張できる可能性を意味しており、意義深いと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究ではモデルパラメターを制限することを目的としているため、パラメタースペースを十分に掃く必要がある。 よって、1パラメター当たりの計算時間を最小にするために下記のような簡易化したモデルを用いて研究を進める予定である。1)光電離平衡を仮定し、Lyα雲の光学的深さはガス(バリオン)密度の2乗とガス温度の0.7乗に比例しているとする。2)ガスは断熱収縮しているとして、ガス温度はガス密度のβ(←パラメター)乗に比例しているとする。3)ガス(バリオン)密度は暗黒物質密度を十分よくトレースしている、もしくは、暗黒物質の物質密度を小スケールで適切な幅(←パラメター)のガウシアンでスムージングしたもので書けるとする。
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