研究課題/領域番号 |
11J08630
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉成 優 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | ディドロ / 理想的モデル / サロン / 美学 / 美術批評 / 百科全書 / 十八世紀 / 絵画 |
研究概要 |
本研究は18世紀フランスの哲学者ディドロ(Denis Diderot,1713-84)の美学理論、とりわけ「理想的モデルmodele ideal」説と呼ばれる人体の形態の美に関する理論の分析に取り組んでいる。この「理想的モデル」説が美術論として主題的に論じられることになるのは1767年のサロン評においてであるが、これはまた50年代以前の著作の中にも散見される述語でもあるため、平成24年度の研究においては、50年代以前の著作を改めて精査し、この思想の形成過程を辿りながら、初期の「理想的モデル」概念に見られる〈古代と近代の美術をめぐる価値観の多様性を超えた絶対的、調停的範例〉という役割を67年の「理想的モデル」説の内にも読みとる可能性を提示することに努めた。この研究は2012年6月23-4日に開催された日本十八世紀学会全国大会において口頭で発表され、同学会に所属する様々な分野の研究者の方々から貴重な意見を賜わった。また、その成果を踏まえて、この研究をただちに同学会の機関紙『日本十八世紀学会年報』に論文として投稿し、同年12月に掲載を受理された。この研究をとおして、多くこれまでの先行研究が60年代以後の「理想的モデル」説の萌芽を50年代の著作の内に遡及的に読み取ろうとしてきたこととは対照的に、50年代の「理想的モデル」概念に託された調停的意図が、どのように形を変えて67年の「理想的モデル」説に表われてくるか、という新たな読解の視点を提示することができた。 また、平成24年度3月には、本年度の研究を準備するためにフランスの国立図書館を来訪し、ディドロと同時代の様々な美術評の資料の精査に取り組み、多大な収穫が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成24年度に取り組んだ50年代のディドロの「理想的モデル」概念の分析と、60年代の「理想的モデル」説をその延長線上に位置づける読解を提示する研究は年度の前半(2012年6月23-4日)に日本十八世紀学会全国大会において口頭を行い、同学会の規定により同年度中に投稿、査読を経て、ただちに次年度の『日本十八世紀学会年報』に論文として掲載される運びとなった。当初予定していた翌年度の論文化、投稿を先取りしたかたちとなり、当初の計画以上に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の研究とフランス国立図書館における資料の調査を踏まえて、本年度ではディドロの美術評と、他の批評家たちの批評文との間の比較に焦点をあて、美術批評家としてのディドロの特徴、とりわけその文体的・思想的特徴を明らかにするとともに、批評文の書き手としての彼の自己認識(哲学者・劇作家であって、画家や美術愛好家ではないという認識)がその批評的態度にどのような影響を及ぼすのか、さらには彼自身の美学理論にどのような仕方でフィードバックされていくのかという点を示す。
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