研究概要 |
本年度は分化阻石であるユークライトからジルコンを同定し,主成分元素濃度および希土類元素(REE)濃度を決定した.ユークライトは小惑星において最外殻を形成していたと考えられており,小規模天体における火成活動の履歴を保持している.地球のような物質のリサイクルがないユークライト母天体において,そこから飛来したユークライトは原始地球型惑星における物質進化過程の解明のために重要な情報を提供する.ユークライトの構成鉱物の中でもジルコン(ZrSiO_4)は物理化学的に非常に安定であり,二次的な作用を受けにくい.従って,ユークライト中のジルコンは太陽系初期の物質進化過程を解明する上で重要な鉱物である.しかしながら,ユークライト中のジルコンは地球のものと比較して存在度が圧倒的に少なく,大部分が10μm以下であるため,粒子の同定自体が難しい.本研究では,6つの玄武岩質ユークライト(Yamato(Y-)792510,Y-82082,Y-75011,Asuka(A-)881467,Juvinas,Stannern)について電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)を用いた元素マッピングを行い,ジルコンの同定を行った.その結果,6つの試料から100個以上のジルコンを同定することに成功した.同定されたジルコンについてEPMAによる主成分定量分析を行った.次に比較的大きなジルコン(>約7μm)をY-792510,Y-82082,A-881467,Stannernから選定し,高感度高分解能イオンマイクロプローブを用いたREE定量分析を行った.その結果,全ての試料で負のEu異常が確認された.また,Stannern中のジルコンの重REE濃度は他のユークライト試料中のジルコンより顕著に高いことが示された.これらのStannern中ジルコンと他のユークライト中ジルコンの差異はそれらの形成過程を反映していると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は上記の結果に加え,次年度行う予定のユークライト中ジルコンの^<244>Pu-Xe年代測定に向けて,(1)ユークライト試料内におけるジルコンの存在状態の観察,(2)消滅核種^<244>Puの模擬元素であるNdの濃度決定,を行うことに成功した.これにより,次年度の計画が予定した通り,またはそれ以上に進展することが予想される.
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今後の研究の推進方策 |
本研究では,これまでに報告例の少ない限石中のジルコンを多数同定し,これまでにない包括的なユークライト中ジルコンの主要元素および希土類元素の定量分析に成功した.これらの結果を基に,次年度行うユークライト中ジルコンの^<244>Pu-Xe年代測定の試料の選択を行う.また,本年度の結果からユークライト母天体での物質進化は一様でないことが示された.この結果に加え,次年度,ユークライト中ジルコンの^<244>Pu-Xe年代測定法を確立することによって,構成鉱物の形成過程と形成年代または二次的なイベントの年代を組み合わせて議論することが可能になると予想される.
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