研究課題/領域番号 |
11J08652
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
下野 昌宣 東京大学, 大学院・教育学研究科, 特別研究員(PD)
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キーワード | ミクロとマクロ / 非一様性 / 数理モデル / 多義知覚 / ネットワーク / Diffusion Tensor / Multi Electrode Array |
研究概要 |
本年度は、数理モデルの骨格を形成するマクロなネットワークを再構成する新規解析を行った。具体的には、Diffusion Tensor Imagingで計測した脳構造画像から白質繊維相当領域をトラッキングする手法を適用し、全脳84の脳領域をつなぐネットワークを再構成した。その上で、両眼視野闘争と呼ばれる多義図形における知覚交代の安定性の個人差に関与が深いと考えられるネットワークを重み付けを行った。この極めて複雑なネットワークの持つ特性を抽出した成果が、国際論文誌に受理されるにも至った。昨年度に、我々が発表した論文を読んだFrontiers Journal Groupから特集号を編集する依頼を受けた (http://www.frontiersin-org/Journal/SPecialTopicDetail.aspx?name=fractal_physiology&st=1054&sname=One-to-many_psychological_ambi)。上記研究は、その特集号の方向性を具体的に開拓した例としての意義もあると考えている。 昨年度、上記の様なマクロなネットワークに不足する構造情報を補完する数十μmスケールのミクロ回路をMulti Electrode Arrayで計測する研究を開始した旨を報告した。その研究もさらに進展し、二件の学会発表を行った。その回路がロバストに示す特性もかなり解明が進んだ。本年度中に様々な形で公開する事が可能となるだろう。 マクロなスケールとミクロなスケールの両方を調べる中で、両者の関係を知る必要がある事も明らかとなってきた。ミクロなスケールは細胞の詳細な位置、接続、興奮抑制性の違いなどを調べられる方法論である。他方、マクロなスケールの研究は、脳領域間をつなぐ繊維の束の配置を調べる方法論である。では、「各領域内での細胞密度と、脳領域間をつなぐ接続と、は関係があるのだろうか?」という疑問が沸いた訳であるが、まだまだ未知な事が多い事が分かった。しかし、当然、各脳領域にある細胞密度の非一様性を考慮することは、シミュレーションの成否を大きく左右すると考えられた。その疑問に応えるべくデータを取得し、解析を行った所、興味深い関係性も見出された。この結果は英文学会誌に投稿した。査読がスムーズに行けば、次年度中に発刊されるであろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)Diffusion Tensorを用いて計測した脳構造が知覚に及ぼす影響を明らかにした以前の研究をさらに発展させ、新たな研究結果を国際論文誌に発表した。この研究では全脳を、80を超える脳領域に分割し、それらをつなぐネットワークを再構成した。ここで構成された構造ネットワークはシュミレーションの骨格を形成する意義を有する。また、得られた知見もこれまでの常識を超える要素があった。(2)ミクロ神経回路の研究成果も間もなくまとめられるであろう。(3)加えて、神経細胞密度とネットワークの関係性を調べた論文を投稿した。これはミクロとマクロをつなぐ重要な要素となると予想された。以上、(1)に見られる研究計画の前進もさる事ながら、(2),(3)の本計画開始時に予想できなかった新規な機会や知見にも恵まれ、本質的にサイエンスが進展した。そのため、おおむね順調に進展していると言えるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
正確な数理シミュレーションを行う上で必要な実験的事実を収集する事が重要である。とりわけ、マクロな情報とミクロな情報を相互補填する事は、多くの若手研究者において困難なテーマである。なぜなら、前者と後者では、実験環境、専門的知識ノウハウに小さくない差異があるからである。その壁を超えようとすると、片方の分野に閉じた研究をしているだけでは体感しにくかった大変な経験もする。本プロジェクトを通じて、この壁を超え、橋渡ししてゆく事の重要性も新たに感じている。この結果として得られる新規情報を活用する事で、質の高いシミュレーションが可能となる。
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