研究課題/領域番号 |
11J08659
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
山田 早人 名古屋大学, 生命農学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | アポトーシス / 核多角体病ウイルス / 昆虫ウイルス学 |
研究概要 |
多細胞生物の生命は、進化的に保存された機構であるアポトーシス(自発的な細胞死)によって統御されている。アポトーシスは癌や免疫不全などの疾患にも深く関与しているため、その制御機構の包括的理解は生命科学における最重要課題の1つとなっている。本研究では、核多角体病ウイルス(nucleopolyhedrovirus;NPV)感染昆虫細胞におけるアポトーシスの誘導と抑制の分子機構について解析を進めた。そして、顕著なアポトーシス誘導特性を持つマイマイガ細胞に対して、強力なアポトーシス抑制活性を示す新規アポトーシス抑制遺伝子apsupをマイマイガNPV(LdNPV)から同定した。apsup遺伝子をマイマイガ細胞に導入すると、マイマイガ細胞はアポトーシスを誘導せず、通常は増殖できないLdNPV以外のNPVも増殖できるようになった。また、RNA干渉法を用いてapsup遺伝子の発現をノックダウンすると、本来アポトーシスを誘導しないLdNPV感染に対してマイマイガ細胞はアポトーシスを誘導するようになった。昆虫細胞におけるApsup過剰発現解析の結果、Apsupはウイルス感染・UV照射・薬剤処理などの多様な刺激に対してもアポトーシス抑制活性を示すことが明らかとなった。塩基配列解析の結果、apsup遺伝子は既知のアポトーシス抑制遺伝子と全く相同性を示さない新規アポトーシス抑制遺伝子であることが明らかとなった。apsupには既知の特定の機能ドメインは見出されていないが、動植物においてもapsup遺伝子の相同体が認められた。このことから、apsupの機能解析は生物一般のアポトーシス制御機構の理解に繋がることが考えられ、今後のアポトーシス研究の発展に大きく寄与することが期待される。また、アポトーシス制御機構に密接に関わるカスパーゼやIAPについての解析においても共同研究者として貢献した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
核多角体病ウイルス感染昆虫細胞におけるアポトーシス制御機構について解析を進めた結果、新規アポトーシス抑制遺伝子apsupを見出し、その詳細な機能解析を進めることができた。また、apsup遺伝子と密接に関わるアポトーシス制御因子(カスパーゼ)の同定に貢献し、今後の解析を順調に進めるための準備を整えることができた。
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今後の研究の推進方策 |
アポトーシス制御機構は、カスパーゼと呼ばれるプロテアーゼの段階的な活性化により調節されていることがこれまでに明らかとなっている。我々はマイマイガと同じチョウ目昆虫であるカイコからカスパーゼを同定しており、その遺伝子情報を基盤にして、マイマイガ細胞におけるカスパーゼの単離に成功している。今後は、apsup遺伝子とマイマイガ細胞のカスパーゼとの相互作用について共免疫沈降法や共発現解析などを用いて追究することで、ウイルス感染マイマイガ細胞におけるアポトーシスの誘導と抑制の分子機構の解明を推進する。
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