未発見K中間子原子核の予言、さらにはその構造の研究には、ドライビングフォースとなるアイソスピンが0(I=0)である反K中間子・核子(KN)相互作用および、それらが結合するpi-Sigma相互作用の情報が不可欠である。実験的には、KN散乱の断面積、散乱長は理解されているが、pi-Sigma散乱の情報は未だ存在しない。そこで本年度はI=0のpi-Sigmaの散乱パラメータの決定に重要となるI=2のpi-Sigma散乱を強い相互作用の第一原理計算により評価したI=2のpi-Sigmaチャンネルはクォークの消滅を含まないようなエキゾチック・チャンネルであり、このチャンネルでは、格子QCDにより相互作用を求めることが比較的容易である。本研究では、計算の正確性を確かめるために、既に実験データ存在するK+pチャンネルの計算も共に行いながらI=2 pi-Sigma散乱を格子QCDを用いて計算した。pion質量が700、570MeVの世界においてI=2のpi-Sigmaチャンネルのポテンシャルを導出し、そのポテンシャルを用いて散乱問題を解き、散乱長を求めた。その結果、散乱長はほとんどクォーク質量依存性を持たず、QCDの有効場の理論であるカイラル摂動論の予言とほぼ一致することがわかった。このため、カイラル外挿し現実的なpion質量でもカイラル摂動論の予言は正しいであろうと考えられる。また、K+p散乱はクォーク質量が大きな領域に於いても、実験データをほぼ再現することも分かった。これは、前者のpi-Sigma散乱の散乱長がクォーク質量にほとんど寄らないことをサポートする結果であり、計算のチェックとともに、これらエキゾチック・チャンネルにおいて、「なぜ粒子が観測されないか?」という疑問にQCDから答えるための第一歩と考えられる。
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