これまで多くの湖沼において沈水植物と共に多大な生物多様性を急激に失うレジームシフトが観察されてきた。こうした湖沼のレジームシフトには、湖沼・河川間など異なる生息地間を移動する魚類の生態が強く関連すると考えられ、水域ネットワークの分断がレジームシフトの引き金となることも予測される。そこで本研究では、魚類による生息地間の移動が、動物プランクトンへの捕食圧変化などを介して湖沼生態系に与える波及効果を明らかにすることを目的とする。 本年は兵庫県加古川市、岩手県奥州市などの農業用ため池群を対象に、池の接続性や流入栄養塩の状況等から複数のため池を選定し、7月及び10月に魚類の種組成や生息数と湖沼生態系の状態に関する調査を行った。調査は複数の研究者と共同で行い、申請者は魚類に関するデータの収集を担当した。今後本調査から得られたデータを基に、湖沼生態系の状態に対する魚類群集の相対的重要性について詳細な解析を進めていく予定である。またこれらため池について、流入水路の接続状況等を確認し、魚類による池外への移動状況を把握するための調査を実施しうる池のピックアップを行った。今後、ため池の栄養状態や周辺の土地利用等から具体的な調査対象池の選定を行い、小型定置網を用いて池・水路間における移動魚類の採捕調査を実施する予定である。これにより、魚類による池・水路間の移動状況及びそれに影響を与える要因に関する解析を行う。
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