研究概要 |
タンパク質の生体内相互作用ネットワークは,病因の理解や創薬ターゲット決定に重要であるが,大規模ネットワークを実験的に導くことは多大なコストを要する.そのため,計算機によって大規模なネットワークを予測する技術が求められている.本研究は公共データベースに登録されたタンパク質の立体構造情報を利用して,複合体形成を擬似的に行うタンパク質ドッキング計算によってタンパク質の相互作用の有無を高速に予測することを目標としており,本年度は相互作用予測精度の向上のためにタンパク質の柔軟性を表現する手法を開発した.具体的には,対象の2つのタンパク質に対して,基準振動解析によって低振動モードの構造変化を加えたタンパク質構造を多数用意し,その構造群同士の総当たりの組み合わせでタンパク質ドッキング計算を行うというものであり,これによって通常計算機上では剛体として取り扱われるタンパク質構造の柔軟性を擬似的に表現することができ,より生体内に近い環境での相互作用予測が可能となった.また,RNA結合タンパク質やRNA触媒の重要性が近年明らかになりつつある現状を鑑み,RNA原子の物理化学的パラメータを導入することでRNAも扱えるように予測システムを拡張した.開発したタンパク質-RNA間相互作用予測システムを78個のRNA結合タンパク質構造を用いたベンチマークデータに適用し,タンパク質同士の相互作用予測と同程度の性能で予測が行えることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
タンパク質構造の柔軟性を考慮することで,想定していた通り相互作用予測の精度が向上することが分かり,その結果に基づくシステムの構築が可能であることを確認できた一方で,偽陽性構造に対する新たな問題も浮上した.しかし,その解決方策も本年度中にある程度検討することができ,次年度以降に問題を解決することができるもの思われる,よって研究はおおむね順調に進展しているものと考える.
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今後の研究の推進方策 |
タンパク質間相互作用予測の精度向上に伴い,実問題への応用を検討することを予定している.対象となる生物系はEGFRシグナル伝達系,β2アドレナリン受容体に関する系を検討する,EGFRシグナル伝達系については予測対象となるタンパク質ペア数が10,000,000通りを超える可能性があり,計算時間の面で問題が生じる可能性がある.これに対してはあらかじめ細胞内局在情報等を用いて真に相互作用しないと断定できるものを除くことで対応可能であると考えている.また,多対多の予測から1対1の詳細な相互作用予測を行うために,疎水性相互作用を導入した予測手法の開発も併せて行う.
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