研究概要 |
以下の2点を実施した. 1,ラット自由選択課題時の不確実性の役割.「European Journal of Neuroscience誌に掲載.平成23年度日本神経回路学会大会奨励賞受賞」 動物の行動選択モデルの構築に向けて,一般的な強化学習モデルを精査・修正した.具体的には,各選択肢で予測される報酬,すなわち行動価値で,不確実性に注目し,その行動への影響を調べた.なお,一般的な強化学習モデルは,行動価値の期待値のみに着目し,不確実性を無視する.本研究は,不確実性を考慮したモデルとして,ベイジアンQ学習を提案し,自由選択課題中のラットの選択行動を解析した.2交差検定法の結果,ベイジアンQ学習は,一般的な強化学習モデルに比べて,ラットの行動により良く適合した.この結果は,ラットは,不確実性を考慮することを示唆する.また,ベイジアンQ学習の自由パラメータを精査した結果,不確実性は,ラットの選択行動を促進することがわかった.次に,本研究は,課題の初期と後期で,ラットの選択行動が有意に異なることに注目した.そこで,課題の初期・後期で,ラットの学習率を比較した結果,学習率が課題後期で有意に低下した.なお,ベイジアンQ学習では,学習率と行動価値の不確実性は正に相関する.この結果は,ラットは不確実性依存的な学習率を持つことを示唆する. 2,二光子励起顕微鏡による課題中のマウス神経活動の多数同時イメージング. 自由行動下の動物で,神経活動を計測する手法として,研究員は,二光子励起顕微鏡を用いた神経活動の多数同時イメージングに注目した.この手法は,20から30個の同定した神経細胞で,神経活動を同時計測できる.本研究は,課題中のマウスで,神経活動を多数同時計測し.行動選択モデルとの相関を調べることを目標にする.そこで,本年度は,上述の実験を実現できる装置の構築を目指した.具体的には,顕微鏡下で行動実験を行なうための,マウス用トレッドミル装置を開発した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
動物の行動選択モデルの構築に向けて,従来の強化学習モデルよりも,ラットの行動により良く適合するベイジアンQ学習モデルを開発し,European Journal of Neuroscience誌で発表した。なお,同研究は,平成23年度日本神経回路学会大会奨励賞を受賞した.また,複数神経細胞の活動を同時計測できる実験系の構築は,順調に進んでおり,次年度からは実際に計測できると考える.
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今後の研究の推進方策 |
現在,二光子励起顕微鏡を用いた課題中のマウス神経活動の多数同時イメージングという,先進的・革新的な手法の構築を目指している.今後,まずは実験系の構築をする.次に,同実験系で,マウスの行動実験を行い,行動選択モデルを構築する.さらに,モデルと計測した神経活動との関係を調べる. なお,研究計画では,神経活動は、複数の電極を脳に刺入し,計測する予定だった.しかし,この方法は,侵襲性が高く,計測した神経細胞を同定できないという欠点がある.これらの欠点は,二光子励起顕微鏡を用いた計測手法で改善されている.また,二光子励起顕微鏡を用いた手法は,電極を刺入する手法よりも,多くの神経細胞から活動を同時計測できるという利点がある.
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