研究課題/領域番号 |
11J08829
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研究機関 | 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
武内 敏秀 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所・疾病研究第四部, 特別研究員(PD)
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キーワード | 神経変性疾患 / ポリグルタミン病 / QBP1 / 脳内デリバリー / 分子治療 |
研究概要 |
近年、神経変性疾患において、原因タンパク質の構造異常(ミスフォールディング)とその凝集が神経変性を引き起こすという共通の発症分子メカニズムが提唱され、この凝集過程をターゲットとした創薬開発が有効と考えられている。この目的において同定されたペプチドQBP1は、神経変性疾患の一つであるポリグルタミン(PolyQ)病の原因タンパク質中にある異常伸長PolyQ鎖に結合し、これらの凝集体形成を抑制することが明らかになっている。本研究ではQBP1をベースにして、脳内デリバリー可能な新規凝集阻害分子を開発し、PolyQ病治療薬の開発を行う。 初年度は、異常伸長PolyQ鎖に対するQBP1の凝集阻害様式を明らかにするため、PolyQタンパク質とQBP1との複合体のNMR立体構造解析を行った。^<15>Nで標識したチオレドキシン-PolyQタンパク質融合体にQBP1を添加し、NMR測定を行った結果、PolyQ鎖部分は主鎖および側鎖由来のシグナルがほとんど重なったことから、均一な構造をとらず、ランダムコイル構造であると考えられた。一方、チオレドキシン部分は本来の立体構造を保ったままであった。続いて結合時のQBP1構造を明らかにするために、^<15>N標識QBP1を調製し、NMRにより複合体の立体構造解析を進めている。また、等温滴定型カロリメトリー(ITC)を用いた解析も開始しており、PolyQ鎖とQBP1の結合状態について一部明らかになりつつある(結合定数~2μM、結合比1:~3)。 これと平行して、QBP1および凝集阻害分子の脳内デリバリーに有用なキャリア分子の探索を行っている。初年度は、受入先研究室にペプチド合成系をセットアップし、細胞内移行性の高い細胞透過性ペプチド(PTD)として代表的な20種類を合成した。今後、in vitro BBBキットにより脳内移行性の評価を行う。これに関連し、2008年にPTDの新規細胞内移行機序を報告したが、その詳細な移行様式について明らかにしたため、Molecular Therapy誌に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度では、QBP1がPolyQタンパク質の凝集体形成を抑制する分子基盤に関し、NMRおよびカロリメトリー測定から徐々に明らかになりつつある。また、脳内デリバリーキャリア探索に関しても、ペプチド合成系のセットアップが完了しただけでなく、多数の候補PTDが合成できている。両者とも、次年度以降の研究の発展に直結する基礎的成果であり、全般的にみておおむね順調に進展しているため。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に引き続きNMRおよびカロリメトリー測定を行い、QBP1の凝集体形成抑制機構を明らかにする。また、PolyQタンパク質の凝集体形成を抑制するのに必須なQBP1構造を明らかにする。これらの構造面からの情報をもとに、凝集抑制作用を有する小分子化合物の設計・合成を行う。また脳内デリバリーキャリア探索に関しては、合成した候補PTDの脳内移行性をin vitro BBBキットにて簡便・迅速に評価し、脳内移行性を有するキャリアペプチドを選択する。上記で得られた小分子化合物およびキャリアペプチドについて、ショウジョウバエおよびマウスに投与し、脳内移行性および凝集抑制効果等を評価する。
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