本年度は、デバイスのシステム応用に向けて重要な課題である環境耐性に関する評価、向上技術の開拓を行った。本研究で用いているポリマー材料であるベンゾシクロプテン(BCB)は、大気中の水分を吸収し屈折率が変化することが知られている。一般的にWDM通信においてはフィルタ波長を固定にする必要があり、吸湿性は大きな課題となる。今回、恒温恒湿器下での劣化試験を行った。また、吸湿保護技術としてフッ化樹脂であるCYTOP(旭硝子製)を検討した。CYTOP (CTL-809A)は、プラスチック光ファイバ材料として用いられるなど光学材料として実績があり、BCBの吸湿率0.2%以下と比較して、0.01%以下と防湿性に優れている。恒温恒湿下試験では温度30℃、湿度80%の恒温恒湿器内に投入し、吸湿による波長シフト時間依存性を評価した。その結果、いずれの構造においても吸湿による長波長シフトが観測されたが、BCBは150時間以降も波長シフトし続けるのに対し、CYTOPではおよそ0.15nm程度の波長シフトで飽和する結果が得られ、BCB埋め込み比べて波長シフト量は約1/4に改善した。また、昨年度確立した紫外線照射による波長トリミング技術に関しても、BCB上CYTOPの二重構造にする事で適用可能である事が分かった。さらに本年度は課題最終年度として、これまでの温度無依存波長フィルタに関わる技術を集積し、2重リング構造を用いた4波長の温度無依存WDMフィルタの試作を行った。波長トリミング前では共振波長のずれにより、波長フィルタ特性が得られなかったが、各リング共振器に所望量の照射を行う事で、各チャネルの切り分けを実現した。以上の成果をもちまして、WDM通信用温度無依存波長フィルタの実現に必要な要素技術の開発、それらを融合したデバイス開発一連のプロセスを確立し、本成果は工学上ならびに工業上、社会に大きく貢献するものと考えている。
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