研究課題/領域番号 |
11J08950
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
苅郷 友美 東京大学, 大学院・理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 神経科学 / 生殖内分泌 / 生理学 / 脳・神経 / 生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン / 黄体形成ホルモン / 濾胞刺激ホルモン / 脳下垂体 |
研究概要 |
日内の時間的な制御を受ける生理現象として脊椎動物のメスの生殖周期(排卵)に着目して研究を進めている。中枢神経系による生殖制御に中心的役割を果たすGnRH1ニューロンを中心に、生殖中枢制御の時間的な制御機構の解明を目指す。本年度は以下の内容に関して研究を実施した。 まず申請者は、GnRH1ニューロンを特異的に蛍光標識したトランスジェニックメダカを用いた電気生理学的解析より、単一GnRH1ニューロンの発火活動が日内変動を示すことを明らかにした。本内容は、申請者がこれまでに明らかにしていた脳下垂体ゴナドトロピン(LH・FSH)遺伝子発現が日内変動を示すという知見と合わせて論文を投稿し、メダカは生殖制御の時間的調節機構を調べる上で有用なモデルであると示した。さらに、GnRHペプチドによる脳下垂体ホルモン放出制御を明らかにするため、当研究室で作成された脳下垂体LH細胞・FSH細胞それぞれに特異的にCa^<2+>インジケータを発現するトランスジェニックメダカを用いて解析を行った。LH細胞とFSH細胞はGnRH添加により異なる細胞内Ca^<2+>変動を示し、GnRHが脳下垂体に作用することによりLH細胞では早いLH放出が引き起こされ、FSH細胞では放出とは異なる転写調節等の変化をもたらすと推測される。本内容に関しては国内外で学会発表を行い、現在論文投稿準備中である。上述の結果をもとに、さらに詳細にGnRH1ニューロンおよび脳下垂体制御を解析するため、GnRH1ニューロンの神経活動や脳下垂体LH細胞からのホルモン放出をイメージング計測するためのインジケータを発現する複数のトランスジェニックメダカ系統を作製している。当初計画していたGnRH1ニューロンの神経活動を生物発光で生体外から計測するためのトランスジェニック系統に関しては、組換成立を確認できたラインが得られたため、今後脳内での発現特異性の検証を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた時計遺伝子のin situ hybridizationおよびGnRH1ニューロンへ投射しているニューロンを逆行性標識するトランスジェニック系統を用いた解析は、特異的シグナルを得るのに難航している、またトランスジェニック系統が未だ確立できていないという問題があり結果は得られていない。しかしGnRH1ニューロンおよび脳下垂体制御機構の解析という点では新たな結果が得られており、全体としては研究の進展があったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
パッチクランプやイメージングといった生理学的解析や、形態学的な解析を行っていくうち、魚類ではこれまで哺乳類で報告されているのとは異なる生殖制御機構が存在する可能性が示唆されてきており、哺乳類ですでに得られている知見を必ずしもそのまま魚類にあてはめることができないと考えている。そこで、当研究室で確立されている特定のニューロンや脳下垂体細胞を特異的に蛍光標識したトランスジェニックラインを用い、これらのメダカの脳や脳下垂体の細胞を解離して標識細胞のみを回収し、次世代シークエンサーを用いたトランスクリプトーム解析を新たに行う予定である。GnRH1ニューロンや脳下垂体LH・FSH細胞が発現している受容体遺伝子を網羅的に解析可能であり、これらの細胞を上位から制御している因子について知見を得ることができる。この解析による結果は、今後の研究の基礎となるのに加え、これまで知られていなかった新たな生殖制御機構を明らかにする可能性がある。現在は細胞の解離条件および細胞回収条件を検討中であり、解析から得られた結果を元に今後生理学的な解析を行う予定である。
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