研究課題/領域番号 |
11J09023
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
石塚 大晃 東京大学, 大学院・工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 磁性 / 強相関系 |
研究概要 |
本年度は、解析手法として用いる多項式展開法のコードの開発(1)や伝導性フラストレート磁性体における幾何学的フラストレーションによる低温磁気構造や伝導特性の解析(2、3、4)、およびフラストレーションによる特異なスピン状態に対する量子揺らぎの効果についての解析(5)を行った。 (1)厳密対角化およびモンテカルロ計算用のコードの開発:スピンアイス近藤格子模型における磁性や伝導特性の評価を行うため、多項式展開法を用いた物理量の計算およびモンテカルロ計算用のコードを作成しベンチマークを行った。 (2)スピンアイス近藤格子模型における低温磁気相図の解析:(1)で開発したコードを用いてスピンアイス近藤格子模型の低温磁気状態を解析した。その結果、電荷密度波を伴う32サイト副格子からなる複雑な超周期構造が広範囲に安定に存在することを示した。 (3)三角格子イジングスピン近藤格子模型における部分無秩序状態に関する数値的研究:近年の擬二次元系における部分無秩序状態の発見を念頭におき、イジングスピンよりなる三角格子近藤格子模型の解析した。モンテカルロ計算による解析から古典スピン模型では不安定であった部分無秩序状態が電子密度が伝導電子との結合によって安定化することを示した。 (4)カゴメアイス近藤格子模型における局所相関と伝導特性の数値的解析:本研究の一つの目標である局所相関による伝導特性への影響を調べる目的で、カゴメアイス近藤格子模型における局所相関による伝導特性への影響を解析した。 (5)チェッカーボード格子上の横磁場イジング模型における液体状態の解析:四角酸結晶における誘電転移を対象として、有効模型と考えられるチェッカーボード格子上の横磁場イジング模型における幾何学的フラストレーションと量子揺らぎの影響を解析し、基底状態に強い局所相関の発達があるものの長距離秩序を伴わない相が存在する可能性を指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の課題として計画していた大規模計算向けのモンテカルロ計算用コードの開発は概ね完了し、作成したコードを用いてスピンアイス近藤格子模型の低温磁気相図の解析を実施するなど、当初予定していた本年度の目標を達成することが出来た。加えて、三角格子系における長距離秩序としての部分無秩序状態の発見やカゴメ格子における局所相関と伝導特性の解析など、本研究のテーマと強く関連する領域において多くの成果を上げることが出来た。これらの成果は、現在、論文にまとめつつあり、近日中に投稿予定である。以上のことから、平成23年度において本研究は当初の計画以上に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
スピンアイス近藤格子模型およびイジングスピン三角格子近藤模型における低温磁気相図や磁気秩序などの局在スピンの熱力学的な振る舞いについての研究は現時点で概ね達成された。本年度は、本研究の主要目標の一つである、フラストレート系における伝導特性や電荷変調などの電子構造や伝導特性の解析を予定している。伝導特性の計算については、パイロクロア格子におけるベンチマークの結果、当初の計画を大幅に上回る計算量が必要となることが判明した。そのため、類似の模型であり、パイロクロア格子の伝導特性についても知見が得られると考えられる、カゴメ格子上のイジングスピン模型(カゴメアイス模型)へと対象を変更し解析を進めている。本年度は、このカゴメアイス模型における伝導特性の振る舞いをより詳細に解析するとともに、三角格子系の輸送特性についての解析も行う。
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