研究課題/領域番号 |
11J09061
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高田 真太郎 東京大学, 大学院・工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 量子ドット / 近藤効果 / 伝達位相 / 二経路干渉計 |
研究概要 |
当該年度は、昨年度までの研究で実現した新しい2経路干渉計が、量子ドットなどの電子相関が働く系において、電子が散乱を受けたときに獲得する伝達位相の測定を行うための系として非常に優れていることがわかったため、当初の研究計画を変更し、この伝達位相の測定を行うことを中心として、研究を遂行した。この電子が量子ドットによって散乱されたときの伝達位相については、いくつかの系において十数年来研究が行われてきたが、依然として未解明な物理を多く含んでいる非常に興味深い対象である。 まず昨年度までの実験結果を踏まえ、試料の作成に用いる半導体構造や試料のデザインの改善を行った上で、2経路干渉計の片方の経路に新たに量子ドットを組み込んだ試料の作成を行った。試料の半導体構造とデザインの改善を行った結果、2経路干渉計の可視度が前回の実験において得られていた約0.3パーセントと比較して、今回の測定では約10パーセントという高い値を得ることに成功した。ここまでの研究で得られた2経路干渉計の飛行量子ビットとしての動作に関する結果は、米国で行われた学会において発表を行い、また、学会誌Nature Nanotechnologyに投稿し、受理・掲載された。この可視度を上げることに成功した2経路干渉計を用い、量子ドットにおいて電子が散乱を受けたときに獲得する伝達位相の測定を行った。その結果、量子ドット内部の電子数が変化したときに、電子の伝達位相がπ変化するという理論予測や先行研究とも一致する結果が得られ、我々の2経路干渉計において、実際に位相を正確に測定できることを確かめた。さらに、量子ドットに典型的な多体効果として知られる近藤効果が発現している状態においても位相の測定を行い、理論的に予測されていた近藤状態における2分のπの伝達位相の変化をはっきりと観測することに成功した。この結果は、多体の基底状態である近藤一重項状態の存在を反映するものと考えられ、非常に重要な意味を持つことから学会誌への発表を考えており、現在論文を執筆中である。 また、3年目に行う予定である『電子スピンの非局所量子もつれ状態の生成と検出』の基本技術として、以前よりフランスの研究者と共同で研究を行なってきた表面弾性波を用いた離れた量子ドット間での単一電子輸送を行うことに成功し、その研究成果が学会誌Natureに掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該年度においては、当初の研究計画とは異なる研究課題に取り組むこととなったが、取り組んだ量子ドットにおける伝達位相の測定において、これまでのどの先行研究よりもはっきりとした形で、多体相関の反映と考えられる位相の振る舞いを観測することに成功した。このことはさらに今後、我々の系においてこの分野における未解決の問題を解決できる可能性を示唆しており、非常に重要な結菓であるといえるため。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究方針としては、当該年度に行った伝達位相の測定を引き継ぎつつ、当初の計画にあった表面弾性波を用いた飛行量子ビットの実現を目指す方針である。特に位相の測定については、測定に用いる試料の改善すべき点がはっきりとしており、非常に重要な成果が得られることが高く期待されるため、まずはこちらの研究を重点的に進める予定である。
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