研究課題
イハラてんかんモデルラット(IER)は、てんかん症状を呈する原因不明の自然発症ラット突然変異体であり、その遺伝形式は常染色体劣性遺伝である。IERでは生後3ヶ月後からピクピクと不自然な筋肉収縮が認められ、生後5ヶ月から激しいてんかん発作を示し、生後1年前後で死に至る。以前の我々の解析により、IERには、海馬肥大と網膜層構造障害等の神経系の発生異常が認められた。しかし、その原因遺伝子については不明であった。本研究では以下の点について調べることによって、IER原因遺伝子産物が神経回路網形成に果たす役割について調べ、将来的にはIERの表現型の解析を基にてんかん発症メカニズムの解明を目指した。i)IER原因遺伝子の確定 ; 連鎖解析で狭められたゲノム領域を、大規模シークエンサーを用いてすべて読み、IERで原因遺伝子にどのような異常があるのか調べた。ii)IER原因遺伝子産物の発現解析 ; 原因遺伝子産物は細胞表面認識分子であった。その原因遺伝子産物に対する抗体と各種細胞マーカーとの免疫二重染色を行い、この分子の大脳・海馬・扁桃体等における発現細胞を同定した。iii)IER原因遺伝子産物の分子機能の解析 ; 子宮内エレクトロポレーション法を用いて、胎児期のマウスの海馬へと原因遺伝子を導入し、その表現型を解析した。その結果、樹状突起形成不全が観察された。また、IER原因遺伝子産物の分子としての接着・反発性を調べるために、L細胞へ原因遺伝子およびそのファミリー遺伝子を強制発現させ、細胞の接着状況や細胞間の距離について調べることによって、分子間接着あるいは反発への寄与について検討した。また、海馬初代神経細胞に、原因遺伝子のshRNAやcDNAを導入し解析を行った。この結果でも、樹状突起の形成異常が見られ、上記L細胞の実験結果と合わせて、IER原因遺伝子産物の機能を解析した。iv)IERおよびその原因遺伝子のノックアウトマウスの解析マウスにおけるIER原因遺伝子産物の発現を確認したところ、ラットとほぼ同じであることが分かった。IER原因遺伝子のノックアウトマウスの出生直後から成体期までさまざまなステージの脳固定標本を作製し観察を行うと、IERと同じ表現型が観察された。
2: おおむね順調に進展している
イハラてんかんモデルラット(IER)の原因遺伝子が確定できたので、次にその原因遺伝子産物の発現解析を行った。この分子に対する抗体を作製し、種々の神経細胞あるいはグリア細胞マーカーとの免疫2重染色を行い、予定通り、大脳、海馬等における発現解析を行うことができた。さらに、子宮内エレクトロポレーション法を用いて、大脳あるいは海馬へ原因遺伝子を過剰発現させることによって、その原因遺伝子産物の機能解析を行った。さらに、IER原因遺伝子のノックアウトマウスを用いて、表現型の解析も始めている。このように、計画通り順調に進展した。
今後は引き続き、子宮内エレクトロポレーション法を用いて、IER原因遺伝子産物の機能解析を行う。それと同時に、IER原因遺伝子のノックアウトマウスを用いて、表現型解析を行う。さらに、原因遺伝子産物の候補結合分子の発現、結合実験を行い、原因遺伝子産物ファミリー分子が作用する分子機序を調べる。また、IER原因遺伝子のファミリー遺伝子の突然変異体マウス(自然発症)も入手しているので、このマウスについても同様の解析を行う。このファミリー分子との関連を調べることによって、多様な神経回路網がいかにして精緻に構築されるのか、理解を深める。さらに、IER原因遺伝子ノックアウトマウスにおいて、IERと同様なてんかん発作がおこるかどうかについて出生数ヶ月後を観察する。
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Journal of neuroscience
巻: 34(14) ページ: 4786-4800
Nature Communications
巻: 5:3337
10.1038/ncomms4337
http://www.ncnp.go.jp/nin/guide/r_diag/index.html