研究課題/領域番号 |
11J09145
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藤田 高史 東京大学, 大学院・工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 量子情情報転写 / 量子ドット / 半導体の光応答 |
研究概要 |
当該年度ではまず、量子状態転写後の媒体である単一電荷を、今後の検証実験を有利に進めるために高忠実度で読み取る実験を行った。用いた試料はGaAs系高電子移動度トランジスタを基盤に作成した半導体横型量子ドットである。試料はヘリウム3冷凍機の中へ沈められ、外部より電気的、また光学的にも接続可能となっている。 今回新たな知見として、2重量子ドットで観測できる特有のドット間電子遷移に関する実時間測定によって、単一光励起電子のドット内補足を確認可能であることを得た。従来の電荷検出手法では電子が逃げる唯一の信号をとらえる必要があったのに比べて、連続的な遷移を読み取ることで可能となった分、非常に検出の忠実度が向上した手法となっている。さらに補足した電子はドットに存在し続けるため、将来的な情報保持の面でもこの検出方法は優れている。実験結果の分析を行うため、購入した数値解析ソフトを用いた。この結果について様々な学会にて報告させて頂き、学会誌への投稿を準備中である。 次に、GaAs系ヘテロ構造を工夫し、量子状態転写に必要な量子井戸幅を有した新たな基板の特性評価を行った。これらの試作基板はカナダNRCのグループにて成長して頂いた。以下の実験や考察は本年度より参加した院生の指導とともに進められた。予定通り低温伝導の磁場依存性とESRの手法を組み合わせg-因子を測定し、実際にこの基板上に量子ドット構造を作成し、単一量子ドットの近藤効果を高磁場で観測した。これらの結果から転写実験に有効な基板の構造が特定でき、さらに現在は光照射の面で有利となるようより改善された構造を設計している。 光励起実験では、バンド構造計算と室温フォトルミネッセンス測定とを組み合わせ、励起に必要なエネルギー準位を特定した。この実験では光ファイバを介した励起実験を行うためのために新たな測定プローブと光学系のセットアップを行い、設計やソフトウェアの改新に携わった。更なる特性評価のために2重量子ドットを作成し、最終的にこの新しい基板においても単一光励起電子の補足を実現した。今回得られた結果は今後学会等にて発表予定である。 今後は補足した光励起電子のスピン情報を取得するべく新たに導入された無霊媒希釈冷凍機でより精密な調整と光照射実験を行う予定である。そのための新規のプローブ設計と作成、レーザーパルスの自動照準合わせに関する設計を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は電荷検出の忠実度向上と、g因子制御された量子井戸基板の評価を目標としていた。電荷検出に関しては、当初予定していた手法とは異なったアプローチをしているが、目標達成の途中経過としては順調に進んでいる。新規の量子井戸基板の評価としては、異なる2種類の手法でg因子を決定した他、今後の光応答測定につながる評価も行えた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の方策としては、当該年度で達成した電荷検出方法を利用してスピン検出することと、評価した量子井戸基板を用いて量子ドットを作成し、スピン検出まで含めた光応答を測定することである。具体的には、補足した光励起電子のスピン情報を取得するべく新たに導入された無霊媒希釈冷凍機でより精密な調整と光照射実験を行う予定である。そのための新規のプローブ設計と作成、レーザーパルスの自動照準合わせに関する設計を進めている。当該年度で評価した新基板の雑音特性を向上するため、結果をフィードバックし、さらに新しい基板構造を評価する予定である。
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