研究概要 |
本研究の目的は、高周波磁場(B^+_1)変動による計測誤差を補正したMRスペクトロスコピー(MRS)計測により疾患の診断精度が上昇するか、動物疾患モデルと9.4テスラMRI装置を用いて検討することである。 3テスラ装置用に独自に開発したB^+_1分布計測法である180°signal minimum法(Nakagami R et al,Proceedings of Int Soc Mag Reson Med,2010)を9.4テスラ装置に適用し、30mm□球形オイルファントムを用いて、従来法(double angle method,Insko EK and Bolinger L,JMR,1993)と同等の均一なB^+_1分布を得ることに成功した。 また、5-フルオロウラシル(5-FU)投与により軽度の認知機能障害を発症するケモ・ブレインラットモデルを作製した。文脈的恐怖条件付け試験の結果、同じ用量の5-FUを投与したラットにおいて、空間認知機能が低下した群としない群とが生じた。これはケモ・ブレイン臨床データと類似する結果であった。5-FU投与ラットのin vivo MRS計測では、海馬のグルタミン・グルタミン酸(Glx)含有量がコントロールと比較して有意に低かった。これまでに抗がん剤投与により海馬の低分子量代謝物が低下したという報告はなく、本研究で得られた結果は重要な知見となりうる。海馬のGlx含有量が減少したメカニズムとして、抗がん剤により神経・グリアのグルタミン・グルタミン酸サイクルに異常が生じた可能性が考えられた。一方、摘出脳の過塩素酸抽出サンプルのin vitro NMR解析では、全脳のタウリンとGlx含有量が有意に減少した。海馬のMRSではタウリン濃度の低下が明らかではなかったが、NMR解析の結果から、海馬以外の領域でタウリン濃度が低下している領域が存在する可能性が高いことがわかった。
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