研究課題/領域番号 |
11J09213
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
小川 敬也 東京工業大学, 大学院・総合理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 固体高分子形燃料電池 / 有機-無機界面 / プロトン伝導 / 量子化学計算 / 水素結合ネットワーク / 無加湿運転 / 細孔フィリング膜 / 酸性基高密度化 |
研究概要 |
本年度は、それぞれスルホン酸基を有する無機電解質粒子であるZirconia sulphophenyl phosphonate(ZrSPP)と有機電解質ポリマーであるsulfonated poly(aryleneether sulfone)(SPES)の界面を量子化学計算によってモデル化し、プロトン移動を解析した。界面モデルでは水が非常に多くある状態、水が十分にある状態、水が少ない状態、水がない状態の4つの場合を仮定し、プロトン移動(Grotthuss機構)で重要な2ステップであるProton TransferとReorientationの活性化エネルギーを調べた。この結果からProton Transferが起こるには短い水素結合距離が、Reorientationには長い水素結合距離の両方が必要であることがわかった。従来の考えではスルホン酸基はプロトンを放出後(SO_3^-)はプロトンアクセプターとして働かず、またプロトンを保持した場合(SO_3H)でも水との結合が強すぎてそこにプロトンがとどまってしまうため、スルホン酸基はGrotthuss機構のプロトン移動経路になることができない。しかし、界面における水素結合を種類分けし、それぞれの長さを評価すると、界面においてスルホン酸基が直接水素結合することで形成されるSO_3H→SO_3^-は短い水素結合距離を、同様にSO_3H→SO_3Hは長い水素結合距離を作ることがわかった。これらの性質はスルホン酸同士が直接結合した場合だけでなく、1~2個程度の水分子を介して水素結合した場合も同様の効果があることも示しており、同時にスルホン酸基単体においては従来の考えが正しいことも証明している。また、分子動力学計算により、90℃条件においてZrSPP-SPES界面上でのプロトン移動を観察したところ、スルホン酸基同士が直接結合した場合に上記の水素結合間距離でProton Transfer,Reorientationが起こり得ることが示された。これにより、固体高分子形燃料電池の作動温度領域において界面でのプロトン移動が示され、電解質膜のプロトン伝導性向上に対して新しいアプローチの可能性が示唆されている。また同じく無機電解質粒子であるZirconium Sulfate(ZrS)においても量子化学計算でプロトン移動を解析したところ、ルイス酸・ルイス塩基の間でプロトン伝導が行われていることが示された。これらは水分子を必要としないため、高温・低湿度におけるプロトン伝導性向上に貢献するものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
プロトン移動が起こるためには短い水素結合間距離だけではなく、消滅しやすい長い水素結合距離も必要であり、界面においてそれらが共に満たされていることが示され、プロトン伝導性向上に対して新しい提案をすることができた。改めて検討するべき事項は増えるものの、より詳細な界面現象の機構や、イオン伝導に対して新しい概念を導入できる可能性があるなど、当初に想定した以上にインパクトのある研究になった。
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今後の研究の推進方策 |
量子化学計算によって高いプロトン伝導性を保有する可能性が示唆されたZrSPP-SPES界面を有する電解質膜の合成にとりかかる。従来のように、研究室の技術である電解質ポリマーと無機粒子を絡ませるキャッピング手法と、膜及び界面構造の維持のために細孔フィリング膜をともに応用する予定である。この膜は^2Hを利用して透過試験を行い、拡散係数を測定する。また、これらの構造ができたかどうかの証明方法として、NMRスペクトルが実験と計算で一致するかどうかを判定基準にする予定である。 また、ZrSもプロトン伝導性向上に有望な無機粒子であるため、同様にZrSPP-SPES同様に解析を続けて有望である場合はこちらも合成を試みる。
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