研究概要 |
本研究の目的である分子計算系の自動設計にあたり,昨年度から引き続き行っている抽象化シミュレーションの近似精度に関する研究を行った.RNAiのシミュレーションでは,構造爆発を防ぐことが可能となったが,分子種を増やした場合に完全二本鎖の濃度の近似が悪くなることを発見した.そこで抽象化により表現される部分グラフにアノテーションを追加することで,完全二本鎖に対応した部分構造を特別に扱う工夫を行った-この結果,完全二本鎖の濃度は極めて正確に求めることができるようになった.さらにこの抽象によって得られる構造の数に着目し,シミュレーションの対象となる系の複雑さを測る指標を発見した.具体例としてRNAiの場合は,ポリメラーゼの伸長反応に対する仮定の違いにより,三段階の複雑さを持つことが分かった.この複雑さの指標は自動設計を行う組み合わせ最適化の評価値として活用されることが期待される.特に計算生物学ではグラフにより化学物質や化学反応の複雑さを定義することが従来行われているため,我々の発見と組み合わせることで,より複雑な系の自動設計への応用が期待される.これらの成果は論文にまとめ,査読を経て国際会議の議事録に採録された.また国内外の会議においても積極的に発表を行った. 具体的な自動設計の例として,最新のアゾベンゼンを組み合わせたDNA反応系の設計を始めた.紫外光および可視光を照射した回数を記憶し,その回数に応じて出力を出すシステムの設計,および化学実験による検証を目指す.一方で新学術領域「分子ロボティクス」での応用を考え,DNAから合成されるハイドロゲルの作成に着手した.既存のゲルを計算場として捉え,自動設計により設計された計算システムとの組み合わせを行い,ゾルーゲル相転移やパターン形成を行うゲルの設計が期待される.ゲルによる研究を進めるために,研究指導の委託制度を活用し,東北大学を訪問することになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分子計算系のシミュレーションにおいてグラフによる抽象化を行った場合,近似精度に問題があったが,部分グラフにアノテーションを追加することで,その問題を回避することができた.より複雑な分子計算系の設計において,近似精度に関する解析は特に重要な課題であった.また一昨年度の研究成果であるDNAオートマトンを発展させ,光を入力した回数を記憶するDNA計算系の自動設計を始めた.光の入力をDNAの駆動力として変換するため,他研究室で開発されたアゾベンゼンを応用する.一方で,知能を持ったハイドロゲルの作成に着手した.DNAを用いたゲルの作成には数種類の方法が確立されているが,その内のモチーフ型のゲルの作成に成功した.
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今後の研究の推進方策 |
研究計画の段階では,自動設計手法を人工遺伝子回路へ応用する予定であったが,国内外でDNAを用いた分子ロボットの作成が盛んに行われるようになったため,平成25年度は自動設計手法をDNAハイドロゲルへと応用する.モチーフ型のゲルでは高濃度のDNAが必要になるため,酵素を用いたRCAやMCAと呼ばれる手法を応用したDNAハイドロゲルを作成する予定である.特にゾル-ゲル相転移やパターン形成を行うための分子計算系を自動設計し,ゲルと組み合わせる.ゲルの設計に向けて,研究指導の委託制度を活用し,東北大学を訪問することになった.
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