研究概要 |
本課題では, スピン偏極水素原子線源と測定系を開発し, 水素原子の散乱を利用した表面磁気構造の測定を行うことを目的としている. H25年度は, 前年度まで開発を進めてきた水素原子線源の開発をさらに進め, ~3x10^<15>㎝^<-2>s^<-1>の流量をもつ水素分子線, ~1x10^<14>㎝^<-2>s^<-1> の流量をもつ水素原子線を生成することに成功した. 現時点では散乱水素原子のスピン偏極度を精度良く測定することが困難だと予想されたため, 方針を切り替え, 水素分子線の散乱による原子核スピン転換を利用して磁気構造を測定することを試みた. 水素分子の核スピン同位体, オルソ水素分子・パラ水素分子間の遷移は気相ではほぼ禁制だが, 固体表面のスピンによって促進されることが分かっている. 散乱水素分子の原子核スピン状態を測定するために, 多光子共鳴イオン化法による測定系の立ち上げを行った. 試料として, 前年度までに酸素欠損による電子状態変化と吸着水素の荷電状態を調べたSrTiO_3(001)表面を用いた. SrTiO_3(001)表面では, TiO_2やZnO表面で議論されるように酸素欠損や吸着水素が局在スピンを持つ可能性があるが, 表面の常磁性相の検知が困難であることから明らかにされていなかった. 酸素欠損のない表面, 酸素欠損を表面に1x10^<13>㎝^<-2>程度含む表面を作成し, それぞれの上で散乱された水素分子の回転状態の測定を行った. その結果, 酸素欠損導入表面ではオルソ水素分子からパラ水素分子への遷移が酸素欠損のない表面と比較して1.9倍促進されることが分かった. 酸素分子を物理吸着させたAg(111)表面におけるオルソ・パラ転換の促進と比較・解析することで, 表面に1.7x10^<13>㎝^<-2>のボーア磁子が存在する可能性があることが分かった. 解析方法の確立により, 将来的に物質と磁性相を選ばない表面磁気構造の解析が可能になると考えている.
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