研究概要 |
本年度はまず,各種薬剤耐性株の分離およびその遺伝学的な解析を行った。Tolnifanideの薬剤耐性突然変異株として,TFR1およびTFR2の2菌株を分離した。交配試験の結果,これらはそれぞれ独立の1遺伝子の変異により薬剤に耐性化していることを明らかとした。このうちTFR1株は,薬剤に極めて高い耐性を示した。一方,TFR2株はある程度薬剤に感受性を示す,中度の耐性を示した。興味深いことに,このTFR2株は通常の培地上においても数珠球状の細胞を形成することから,細胞極性に関与する遺伝子の変異株であることが示唆された。これらのことから,Tolnifanideの耐性化および作用性には細胞極性因子が関与していることが考えられた。さらにFludioxonilに関しては,Dic3変異株に特に注目をして解析をすすめた。 本年度,新たに交配試験による追試を行った結果,Dic3は既知のDic2遺伝子(ChSkn7遺伝子)とは独立の遺伝子であることを確認した。さらに,Dic2変異株はH_2O_2に感受性を示すのに対し,Dic3変異株は耐性であることも明らかとした。これまでに,Dic2およびDic3遺伝子変異株は既知のHOG経路とは独立に作用することが明らかとなっているため,Fludioxonilの作用機構に関わる重要な新規因子であると考えられた。 次に,これら薬剤耐性変異株のそれぞれについて,交配型の異なる野生株(マシキ株)との戻し交配試験,および子孫株の分離をこれまでに5-6回繰り返し行った。いずれの交配試験においても,子孫株は約50%程度の確率で薬剤の耐性が遺伝していた。今後,2から3回程度の戻し交配を行った(計7-10回程度)のちに,次世代ゲノムシークエンサーを利用しその変異点を同定する予定である。
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